社外取締役の仕事はとにかく「社長に聞くこと」

村上:海外(主にアメリカ)では、基本的に社長だけが執行と兼任の社内取締役で、それ以外は社外取締役というのが一般的です。そうすると、社長の任務のうち社外取締役を説得することが重要になって、社長が何らかの交渉をする時に、「これで、俺は取締役を説得できるかな」って常に意識するようになる。「落とし所はこの辺かな」とか「もう少し条件交渉の余地があるな」とか。
ところが、取締役が社長の部下になってしまうと、パワーバランスが働かず説得のプロセスが機能しないから、結果的に株主の価値を毀損するリスクが生じてしまいますよね。

小林:コーポレートガバナンスを専門とされている大手法律事務所の弁護士の方の講演で、なるほど興味深いと思ったのが、アメリカの取締役は「わからんことを(取締役会で)質問する」、つまりは経営者に対してアカウンタビリティー(説明責任)を発揮させるのが責任だというお話でした。日本の場合、社外取締役の要件に「業界をよく知っている人」といったことが挙がりがちですが、そうするとある種の忖度がでてきたりして、「この業界はこういうものだから」という旧態然とした意思決定が通ってしまったりする。

朝倉:知りすぎていてもよくない、というのはありますね。わかっている気になっていて、実はまったくわかっていないということもあるし。

小林:そうそう。アメリカの取締役は、「株主の大半はよく分かってない中で、理解力のある人が代表として質問します」っていうイメージなんです。だから、その理解力のある社外取締役陣すら納得させられないようなら、いわんや株主も納得させられないでしょう、と。一方で、日本においては社外取締役の役割として「助言」っていう側面が相対的に強く意識されており、「社長や会社に有益なことをインプットしてくれる人」を選ぶ、という考えが強い。そうすると、会計・財務・法律などの専門家や、当該業界に精通している人じゃないと入れないし、結果的に適任者がいないという話に陥りやすい。

朝倉:それではなんだか、社長が社外取締役からインプットを受ける「お客さん」のような位置づけになってしまいますね。
以前にオリックスの宮内さんにお話を伺った際に仰っていましたね。「社外取締役は必ずしも事業の内容を分かっている必要はない。わかっていなくてもいいけど、『なんですか?このひどい業績は?』って社長に言えなきゃいけないんだ」と。
あえて単純化した言い方をなさっているんだとは思いますが、究極的にはそういうものなのだと思います。取締役はコンサルタントじゃないんだから。

村上:取締役は、アドバイザーじゃないんだよね。企業って上場した瞬間に公器になるわけだから、株を持っている人に説明したり、情報開示したりして、説得にコミュニケーションコストを掛けましょうということだと思うんです。
それは、株主の代表たる取締役会も然りで、そういう意味では、取締役会で社長は、どんな些細なことでも説明責任があるということですよね。

小林:まさにそうだよね。

村上:たとえば、ある日本企業で取締役会に社外の人を入れた結果、執行と兼任の社内取締役が、「あの社外取締役は意味のわからん質問ばかりしてくる」と文句を言うようになったんだそうです。「マクロ(の経済状況)次第で為替が動いたりすると、このビジネスは崩れるんじゃないですか。どうやって、リスク対応されてるんですか」とか質問されると「うざいなぁ……」ってなるようなんですけど、それは違うだろうと。
オペレーションを担う人間が暗黙のうちに事業の前提としている「それ、崩れたらどうしようもないやん」といった見通しこそ、事業の成否においては一番大事な質問やと思うんです。
そういう意味では、「為替が動いたら、前提が変わるのは当たり前なんだから、そんな質問しても意味ねえよ」とオペレーション側の人間が思わず言いそうになる質問に対して、本当に対策を講じるのが「ガバナンスが効いている状態」。そうした質問に対して、なんとなく言いくるめてやり過ごしてしまうのが、「ガバナンスが効いていない状態」。ガバナンスが効いていないと、実際にそういった事態に陥ると、後手に回ってしまうことになるんです。

*次回に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年12月29日に掲載された内容を一部改編したものです。

朝倉祐介 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。


村上誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。


小林賢治 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。