社長のご託宣で次の社長が決まっていいのか

朝倉:先日、早稲田大学ビジネススクールの川本裕子教授が仰っていたことですが、一昔前の日経新聞の「私の履歴書」には、「ある日突然、社長室に呼ばれて、次の社長はお前だと言われて驚いた。そこから必死に社長になるための勉強を始めた」といったエピソードが平気で飛び出します。
これと同じことを今、新聞の取材で答えていたら、かなり問題ですよね。社長というのは、先代の社長が独断で選ぶものではないんですから。「この会社の社長選びは、先代の好き嫌いで決まるんかいな」と株主から怒られてしまいます。

小林:そもそも「社長」を誰が務めるかは、株主の付託を受けた取締役たちが、取締役会で議論したうえで決めるもんだからね。それで言うと、僕は、ドラマ「半沢直樹」を思い出すんです。
最終回で、不正をやらかした取締役の大和田暁常務(香川照之・演)が中野渡謙頭取(北大路欣也・演)に呼び出されて、「常務取締役改め、取締役!」と降格を言い渡されると、大和田が「それでいいんですか!?」って、頭取にひれ伏して終わるんですけど、「いや、おかしいやん!」と思うわけです。
本来、取締役会は社長に対して牽制をかける役割も持っているわけですが、その構成員たる取締役が社長の鶴の一声で決められるということは、実質的に取締役が社長の部下になってしまっているようなもんですよね。頭取が「お前やらかしたけど、今回は取締役に残しといたるわ」っていう任命権を持つことで、完全に奴隷にしてしまっている。これはドラマですが、実際に起これば企業統治もへったくれもないよなと。
でも実のところ、日本の古くからの会社によくある話で、役員は社長の部下っていうパターンですよね。執行の延長線上にある出世コースの最後に取締役が位置づけられていた文脈からすると、そうなっちゃうのはわかるんですが。

朝倉:取締役という職業は、会社の重大な意思決定を担うという点において、全員が同じ責任を負っているわけですよね。
代表取締役社長が取締役の中で、一番偉いわけではない。たとえば代表取締役社長が取締役3人分の議決権を持っているわけでもないじゃないですか。だから、取締役間でそうした上下関係ができているというのは、本来はまずい話ですよね。取締役の中では、自分を引き上げてくれた先輩の社長であっても、「あなたの言ってることはおかしい、間違っている」って言えなきゃいけない。
でも、日本では、そういう出来事を、ものすごく珍しいこととして、取り上げられるわけじゃないですか。大塚家具の経営方針を巡る取締役の親子間の対立が最たる例でしょうが。あれを「お家騒動」だなんて色眼鏡で見て、面白おかしく報じているんですから。日本のメディアのリテラシーの底が知れます。