メーンの生酢に代わる
看板商品にする大勝負

 当初の売れ行きは微々たるものだった。小売店の商品陳列棚の隅にひっそりと並び、人知れず売れていた。

 だが、多産多死の食品業界にあって、新商品は、発売した直後に最も売れ、その後売り上げは急速に落ちていくものが多い。

 対してカンタン酢は、発売時の売れ行きこそ派手ではなかったが、その後も売り上げは落ちずに、じわじわと増えていった。

 確かなリピーターが存在している──。特に広告を打つわけでもないのに、年を追うごとにじわりと売り上げが伸びていく様子を見て、それまでの淡い期待が、確信に変わった。「これは売れるぞ」。

 カンタン酢をもっと仕掛けるべく、開発チームは勝負に出た。それまで、穀物酢や「米酢」といった生酢のテレビCMに向けていた広告投資を、カンタン酢のテレビCMにシフトしようと考えた。

 CMは、会社のイメージに直結する。つまりこのシフトは、ミツカンの看板を穀物酢からカンタン酢に代えるようなものだ。

「本当に大丈夫なのか」。生酢に愛着のある経営陣からも、カンタン酢へのシフトに対する不安の声が上がった。

 チームは確信していた。これからの伸びを考えれば、認知度がまだ低いカンタン酢に注力するのが正しいはずだと。

 14年、カンタン酢の大きなリニューアルを実施した。それまでにも容器やデザインの変更などのリニューアルはしたが、このタイミングで現在の商品名に変更し、併せて大規模な広告を展開した。

 果たして、売り上げは爆発的に伸びた。発売当初の08年度に3万ケースだったものが、14年度には33万ケースに拡大していた。

 その後も売り上げ拡大は止まらない。多様なメニューの提案やCMの効果、SNSなどの口コミでも広まった。ちまたでブームを巻き起こし、それがけん引役となって17年度にミツカンは食酢で過去最高の売り上げを記録した。

 発売から雌伏の10年を経て、名実共に、カンタン酢はミツカンの看板商品となった。ニーズの変化を敏感に捉えた商品が、変化に乏しかった食酢市場に風穴をあけたのだ。

 今年からカンタン酢の責任者となった佃。今や社運を懸けるカンタン酢の売り上げを、さらに伸ばすという大役を担う。

 まだまだ認知度を高める余地はあるし、競合商品が出てこないとも限らない。「ミツカンといえばカンタン酢だといわれるくらいにしていく」と佃は力を込める。

 その道のりこそ決してカンタンなものではないが、歩みを止めることはない。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)

「カンタン酢」、ミツカンの歴史を塗り替えた新No.1商品誕生の秘密Photo by Y.W.

【開発メモ】カンタン酢
 さまざまな料理に使える調味酢。ピクルスや甘酢焼きなど豊富なメニューに活用できる。その利便性やこれ一つで味が決まる簡便さから、時短を求める女性などに受けて大ヒットした。最近ではドレッシング代わりに使える「かけるカンタン酢」などの派生商品も展開。ちなみに、佃お勧めのアレンジ料理は、生のオクラを切って漬けたピクルスだ。