2011年にヒットした食品や飲料を見て、気付くことがある。いずれもロングセラー商品の改良版であることだ。新しいものに目移りするのが世の常と言うものだが、最近は少し事情が異なってきている。
たとえば、1976年に発売された亀田製菓の「ハッピーターン」。一部のコンビニ向けに限定販売されていた改良版商品「パウダー250%ハッピーターン」(せんべいにまぶす調味粉の量を通常の2.5倍にしたもの)が全国発売され、人気を博した。
同社では、新商品の売上の苦戦をこの改良版ハッピーターンなどがカバーし、2011年9月期の中間連結決算は過去最高の経常利益と純利益を達成した。今年3月には期間限定でチーズ味を発売し、これも大きな反響を呼んでいる。
発売から80年経つ江崎グリコの「ビスコ」も、再び人気に火が着いた。昨年は健康を意識した小麦胚芽入りをリニューアル発売し、5年ぶりにテレビCMを放映。食べ切りミニパックで新しい味も追加した。
子どもに加えて、若い女性や高齢者にファンが広がり、2011年度の出荷額は対前年度比4割増の45億円と、過去最高となる見通しだ。防災意識の高まりから、長期保存できる「ビスコ保存缶」の出荷額が10年度の7倍以上となったことも大きく寄与した。
飲料では、1951年発売で60周年となった「バヤリース」(アサヒ飲料)が、4月に主力の「バヤリースオレンジ」「バヤリースアップル」の中味とパッケージを刷新した。「バヤリース オレンジスパークリング」(8月)、ホット飲料「バヤリース ほっとオレンジ」(11月)などの新商品も矢継ぎ早に投入。バヤリースは対前年比116%を記録し、2011年におけるアサヒ飲料の9年連続販売増、過去最高の販売実績に大きく貢献した。
では、今なぜ改良型ロングセラー商品が人気なのか? 第一生命経済研究所の宮木由貴子氏は、複数の要因を挙げる。まず、大きなトレンドでは、「消費者が保守化している点」である。長引く不況の影響で、新商品にチャレンジするよりも、無難で失敗するリスクの低いロングセラー商品に、目が行きがちになっているのだ。
さらに、昨年の震災や原発事故が、そのマインドに拍車をかけたという。消費者はより安全・安心を意識するようになり、昔からの馴染みの商品を求める“コンサバ消費”志向がより強まったのである。
一方、「長年愛用してきた世代だけでなく、その子どもに当たる若い世代にもファン層が広がっていることも注目すべき点」と、宮木氏は指摘する。リニューアルにより、「古いが新しい、新しいが歴史がある」というイメージが創出され、古くからのファンとともに、新規ファンの取り込みにも成功しているのだ。
企業側の都合もある。厳しい経営環境にあっては、リスクが高いゼロからの新商品開発より、ロングセラーの改良版に注力する方が得策だ。実際にアサヒ飲料は、ロングセラー商品に経営資源を集中させている。
2012年も、ロングセラー商品の改良版が続々と登場する。たとえば、シュガーレスガムの「クロレッツ」(日本クラフトフーズ)。1985年に発売され、ガム市場が縮小するなか、10年連続で売上を伸ばしている人気商品だ。2月には「噛んだ後もまだまだ息きれい」という新コンセプトでリニューアル新発売を果たしている。
また日清食品は、40周年記念商品として、カップヌードル史上最大サイズの「カップヌードル キング」を、グリコ乳業も発売40周年を迎える「プッチンプリン」で、甘みや風味を高めた改良型新商品を1月に発売している。4月には、1919年発売のカルピスが17年ぶりにパッケージを一新した。
景気の動向や震災後に様変わりした消費者マインドを考えると、コンサバ消費志向は当分変わらないだろう。改良型ロングセラー商品の人気は、この先もしばらく続くそうだ。
(大来 俊/5時から作家塾(R))