竹内  説明はできないけれど、なんとなくヤバそうとか、嗅覚でわかるじゃないですか。エンジニアは会社に閉じこもっている人も多く、外の世界に触れないから、そういった嗅覚が鈍いんですよ。だからチャンスをあげても、逃げ出さないんです。本当に気の毒だと思う。

ちきりん  じゃあこういうのはどうですか? 3年ぐらい働いたとき、アメリカのビジネススクールへ行くとか、あるいは海外赴任でもいいんですけど、とにかく外へ出る。海外を2年間ぐらい体験したら、エンジニアだって考えが大きく変わるように思いますが。

竹内  それはいい手ですね。たとえば東芝のフラッシュ部門は最初、弱小部隊で人も少なく、資金もありませんでした。そこでサムスンと共同開発をしたり、その後は、サンディスクという会社とも共同で開発をしているんです。そうすると、お互いの会社の成り立ち、仕事の進め方、会社と自分とのスタンスの取り方などが全然違うことに気づくんですよ。

 サムスンやサンディスクだったらこういう待遇なのに、俺たちはなんでこうなんだと。誰でも、直接に体験を積むとわかるものですが、同じことを新聞や本で指摘されていても、なかなかわからないですね。

「エンジニアは好きな技術に没頭できる」のウソ

ちきりん  外の世界を体感的なレベルで知ることは、すごく大きいということですね。先生の最初のそういうご体験は、サムスンやサンディスクとの共同作業の時だったのですか? それともスタンフォードのビジネススクールですか?

竹内  私の場合は共同作業です。ただ、私はメーカーに行くか、銀行に就職するかは関係なく、会社に入ったときから、会社への信頼感が希薄でした。親父が銀行員だったのですが、クビ切りの実態とか、会社のやり方の冷たさを感じていたんですよ。

ちきりん  銀行だと、役員になる人以外は40歳くらいでどんどん関連会社に出されますよね。だから、竹内先生は最初から「会社という組織への信頼感」がなかったってことなんでしょうか?

竹内  信頼感なんて、全然なかったですね。私がサラリーマンをやるといったら、オヤジはガッカリしてましたよね。せっかく工学部に入ったのだから、自分とは違って腕一本でやっていける仕事に就くほうがいいんじゃないか、と言ってましたね。東芝でも、憧れて入社した上司の舛岡さんは、私が入社して2年くらいで会社を辞めて、東北大学に移られたし。

 よく誤解されるんですが、「理系のエンジニアは自分の好きな技術に打ち込めるからいい」という意見がありますよね。あれは大ウソですよ。技術なんて千差万別だし、会社に入って実際にやるまで、技術の本当の中身なんてわかりません。私だって、フラッシュのことは入社するまで何の知識もなかったし、いまもフラッシュ以外のことはそんなによく知っているわけではない。仕事でたまたまやっていただけのことです。

 文系の人はエンジニアに「自分の好きな技術に打ち込める」とか「やりたいことができるぞ」とか言いますけどね。会社の中で力をもっているのは、文系の人とか、マネジメントの人ですからね。

ちきりん  えっ? 文系の人が理系を騙している? それは心外ですね。エンジニアに就職しろと誘うリクルーターは、ほとんどがエンジニアですよね? それに、技術系の会社なのに本当に文系の人が力を持っているんですか? 「役員の多くはエンジニア出身だ」とおっしゃっていましたよね?