ちきりん
関西出身。バブル最盛期に証券会社で働く。その後、米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。マネージャー職を務めたのちに早期リタイヤし、現在は「働かない生活」を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログ「Chikirinの日記」を開始。政治・経済からマネー・問題解決・世代論まで、幅広いテーマを独自の切り口で語り人気を博す。現在、月間150万以上のページビュー、日に2万以上のユニークユーザーを持つ、日本でもっとも多くの支持を得る個人ブロガーの1人。著書に『ゆるく考えよう』(イースト・プレス)、『自分のアタマで考えよう』(ダイヤモンド社)がある。

ちきりん  お聞きしていると、竹内先生が一貫して主張されているのは、傾き始めた会社をどうよくするか考えるのではなく、将来の可能性のある優秀なエンジニアほど早く脱出してその先で花を開かせよと、というメッセージに聞こえますが、そういうことですか?

竹内  もちろんそうです。一度傾いた会社が再生するなんて、相当むずかしい話だと思います。基本的に再建しないですよ。ジャック・ウエルチやカルロス・ゴーンでもいない限り。

ちきりん  先生も私以上に「混乱Lover」みたいですね……。ではエンジニアの方に、「アナタは実力があるんだから、そんな会社でくすぶっているより、辞めて別のところで働いたほうが合理的ですよ!」と思わせるにはどうすればいいんですか? 私もブログでは、いつもそう煽っているんですけど(笑)。

竹内  会社が潰れていくサマとか、隣の事業部が消えていく姿を直視すれば、さすがに自分の身の振り方を考えると思いますね。

ちきりん  なるほど。今はトップ1%のエンジニアが辞めているということでしたが、もし上から10%くらいの人が辞め始めたら結構、大きなことになりますよね? 大手メーカーでトップ10%に入るエンジニアなら、他の会社ならトップ1%になれるはずだし、その人たちが新しい会社で新しい事業に着手できたら、日本経済にもいい影響があるはずですよね。

決め手は「外の世界」との関わり方

ちきりん  エンジニアの方のキャリアに関する考え方って、他の国でも同じようなものなんでしょうか?

竹内  日本はとくに平和ボケですよ。戦争がなかったという意味じゃなくて、いままで日本のメーカーは大変強くて、何十年も大丈夫だったから、同期のエンジニアで路頭に迷う人はいなかったからという意味での平和ボケです。本人もいけないけど、周りの人もエンジニアにそういうことを考えさせないようにしてますよね。君らは技術だけ考えていればいい、金融や営業は俺たちがやってあげるから、と。

 でも、若い世代は、俺は騙されないぞと思ってますね。私の研究室の学生は大手半導体メーカーには行かないですよ。どこの研究室でも、総合電機とか、産業は減っています。

ちきりん  理系では今でも教授の推薦枠で企業に就職することが多いんですか?

竹内  いや、最近は推薦でもどんどん落ちるから、推薦枠はあまり関係なくなってますね。

ちきりん  そうなんですね。文系の場合、就職人気企業ランキングにおいて今でも旅行会社、航空が上位を占めていて、「なんだかなー」と思います……。

竹内  そういう学生に何を言っても通じないんです。いい会社だと信じ込んでいるのだから。ただ、私も学生の頃は同じでしたけどね。

ちきりん  たしかに私も何もわからずに証券会社に入社しましたが、3年ぐらいたったら、この会社が自分が60歳まであるかどうかはわかるものですよね。