竹内  営業や人事はたいてい文系ですよ。イメージとしては、大河ドラマでいうと、天皇の周りにいる貴族みたいなものです。貴族は数も少なくて何ができるというわけではないけれど、トップである天皇はそういう貴族に取り囲まれて生きているわけですね。もし、周りの貴族がそっぽを向くと、トップは何もできなくなってしまう。

日本のビジネススクールと「技術経営」がダメなわけ

ちきりん  竹内先生の話を聞いていて思ったんですが、じゃあ思い切って、文系の人を全員クビにしたら、半導体メーカーって再生できますか?

竹内  すごい極論ですね。でも、ちきりんさんの期待とは逆に、すぐに潰れると思いますよ。

ちきりん  えっ、すぐに潰れちゃう?

竹内  エンジニアって、趣味としか言いようのない、売れそうにないものもつくりたがるんですよ。そのとき、「そんなもの、売れるわけないだろ」と一蹴できるのは、文系の人なんですよ。だからエンジニアだけが集まると、一気に変な方向へ行って即死しかねませんね。

ちきりん  いや、私が言いたいのはちょっと違うんです。エンジニアだけの会社にすると、その中から、今後も技術者としてやっていきたい人、ビジネススクールへ行って経営分野に移ってみたい人、技術出身だけどマーケティングに興味がある人など、エンジニアの中からいろいろと分かれてくると思うんです。それだったら技術のベースも共有しているし、企業が再生できるんじゃないかなと思ったんですけど。

竹内  たしかに、エンジニアの中にも、本当はこの人は技術ではなく営業をやらせたほうがいいとか、マーケティングをやらせたほうがいい、という人はいますね。配置転換をすると、意外にうまくいった例もあるので、案外、いけるかもしれないですね。

ちきりん  起業をする時でも、工学部を卒業した10人が協力してベンチャーをつくり、そのうち2、3人はマネジメントに興味が出てきて、そしたらその人たちにはビジネススクールに行ってもらう……そういう形で経営するのもありかなと。

 はっきり言って、私はもうビジネススクールは文系が行く意味のあるところではないとさえ思ってるんです。「スタンフォードのビジネススクールの場合、7割くらいが理系学部出身」と、竹内先生のご本に書かれていましたけど、文系の場合には、たんに箔付けに行くだけに終わってしまいます。1000万円も2000万円もかけて行くところではないんですよね。

  そういう理系だけの人の会社ってどうですか?

竹内  そういった会社はぜひ見てみたいですね。

ちきりん  エンジニアだけで創業した会社だと、実際にエンジニアの人が経理や営業もやってますしね。

 あと、どうやって人にやる気を起こしてもらうかとか、人の能力・成果をどう公平に評価するかとか、人事や組織マネジメントも大事なんですが、エンジニアの人って大学でも働き始めてからも、そういうのを学ぶ機会が全然ないですよね。竹内先生は、これをどこで教えるべきだと思いますか。

竹内  ビジネススクールだと思いますよ。でも、日本のビジネススクールの多くはいまひとつですね。