最も心配なのは「トロイアの木馬」現象だ

 さて、ある金融機関が1人の「運用のプロ」を雇うことができたとしよう。この人が、どの分野の運用のプロなのであるかによって多少事情は変わるのだが、大筋で考えて、この人が1人で自分の担当する資産運用業務を完結できるとは考えにくい。

 仮に、株式運用のプロであるとすると、株式市場や個別の銘柄に関する情報を、証券会社などに頼る可能性は小さくない。債券運用のプロも、自分1人では債券市場の情報収集を完結できまい。

 さらに、デリバティブなどのいわゆる代替資産運用のプロの場合、単身で地方銀行などに乗り込んで、そこでデリバティブ商品を自分で組成できるとは思えない。おそらく、出身の金融機関グループないし、もともと親しい相手のいる金融機関に商品組成を頼むことになるだろう。プライベートエクイティや不動産ファンドなどの「プロ」も事情は一緒だ。「プロ」とは言いながらも、実質的には「客」になるのだ。

 彼らが、雇われた先で「運用のプロ」らしく振る舞うためには、外部の金融機関の協力を必要とすることが多い。その場合、外部金融機関の“水先案内人”のような役割を果たすことになってしまう。雇った側にとって不都合でも、雇われた個人の利害を考えると十分にあり得ることだし、当座は雇った側も満足する場合が多いのだ。

 こうした状況を考えると、三顧の礼をもって迎えた運用のプロが、トロイア戦争の故事で伝えられる“木馬”のごとく金融機関の内部に入り込んで、外部の金融ビジネスを中に招き入れる役割を果たす可能性が小さくない。

 例えば元証券会社などの財務担当者が、取引先の証券会社にすっかり籠絡されて、リスクを取った運用(相手先にとっては手数料の大きい運用)にのめり込んだ結果、大きな損失を作ったような、過去の学校法人などのケースと同類のことが起こるのではないかという点に大きな心配がある。

 この種の“木馬”には、数十億円クラスの“子馬の木馬”から、兆円クラスの“巨大な木馬”までが現存するようだが、金融機関の経営者には大いに気をつけてほしい。