規制値厳格化によって、検査結果もさらに激増。だが食品汚染の実情を体系的に把握することは困難だ
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 まさに本末転倒である。食品中の放射性物質規制強化のことだ。

 4月1日から、食品衛生法で定められた放射性物質の規制値が変更された。これまで1キログラム当たり最大500ベクレルだった暫定規制値が、最大100ベクレルに厳格化された。

 そもそも放射能検査を厳格化したのは、食品の安全性を国がしっかり担保し、情報公開を進めて消費者の不安を払拭するためだったはずである。ところが、4月1日以降、情報公開は進むどころかかえって後退している。

 厚生労働省のホームページを見てほしい。報道発表資料のところに「食品中の放射性物質検査の結果について」という項目があり、検査結果自体はPDFファイルで閲覧できる。

 しかし、それらは自治体から上がってくる検査結果をランダムにまとめて電子化しているだけ。つまり、具体的にどの地域でどんな食品を検査し、どのような結果が出たのかを調べるには、バラバラにアップされているPDFファイルをいちいち開いて確認しなければならない。この結果は、後にエクセルファイルにもまとめられるものの、発表から約2ヵ月後という遅さだ。

 原発事故後、その検査数は累計13万件を超え、報道発表数は4月17日現在で368報に及んでおり、検査日ごとに1日数百件以上にもなる検査結果を一つ一つ確認することは不可能に近い。

 実は、3月31日までは、食品流通構造改善促進機構という農林水産省所管の財団法人が、この厚労省の発表資料からボランティアでデータベースを構築し、情報を更新していた。日付や品目、産地などで検索、集計ができ、食品業界関係者や生産者団体、研究者などの利用もあり、最大で日に1万件ものアクセスがあった。

 だが、今回の規制値厳格化に伴い検査結果が激増するため、対応し切れず更新を中止、サイトも閉鎖することになってしまった。

 本来、こうしたデータベースなどを整備し、検査結果を閲覧・活用しやすくする義務は国にあるはずだ。しかし当の厚労省は、「現段階で、これ以上のシステムを作る計画はない」とにべもない。

 これではせっかくの検査結果を膨大なデータの中に“故意”に埋没させようとしているとみられても仕方がない。

 今回の規制値厳格化に伴い、各自治体では新たに検査機器を購入し検査を行っている。わざわざ時間とコストをかけて行った結果を、国は消費者にしっかりと伝える気がないのか。だとすれば、単なる金の無駄づかいというだけでなく、消費者の不信感は増幅し、食の安心はますます遠のくことになる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

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