日本が勝利するための鍵。
戦略を巡る「3つのサイクル」
日本人が今後、勝利に向けて前進するためには、自らの強みを意識しつつも、戦略に対する考え方を改めていく必要があります。『失敗の本質』には直接書かれていませんが、日米におけるイノベーション戦略から導き出される普遍的な法則として、以下のような「3つのサイクル」と呼べるものが存在しています。その構造を理解し実行することは、今後、日本人がビジネスで勝利していくためにも極めて重要です。
【戦略を巡る3つのサイクル】
(1)「追いかける指標」として、有効な戦略を「発見する能力」
(2)市場の支配的な戦略を見抜き、無効化する「イノベーション」
(3)自らの指標の有効性を、敵から守るための「イノベーション阻害戦略」
新たなイノベーションを生み出す戦略は、まず市場において優位となっている「指標(戦略)」を見抜くことから始まります。第3回でも詳しく見たように、米軍は当時最強だった零戦の「軽量さ」「旋回性能」という指標を最初に見抜きました。
そして、その指標(戦略)を無効にする新しい戦略を立てます。米軍は零戦を封じ込めるために、2機1編隊による複数攻撃や、重武装機の開発、当たらずとも撃墜できるVT信管などによって、零戦の強みを無効にしました。このように既存の指標を発見し、それを覆すことでイノベーションを起こすというのは、スティーブ・ジョブズが行ったiMacやiPodの戦略と同じだということも第3回でふれました。
サイクルの最後は「阻害戦略」です。イノベーションは常に既存の戦略を覆すことで生まれますが、新しい指標を生み出した側は、今度はそれを簡単に覆されない戦略を立てなければなりません。
もちろんこれはサイクルであり、その指標を守り優位性を保ちながらも、再び①に戻り、新しい指標を再び生み出していく必要があることは言うまでもありません。
では、この「戦略を巡る3つのサイクル」において具体的にどう実行していけばいいのか、一つずつ詳しく見ていきましょう。
(1)「追いかける指標」として、有効な戦略を「発見する能力」
戦略とは「追いかける指標」であり、その指標を追いかけることで最終ゴールとして掲げた目標が達成できるかどうかが重要になります。では、戦略を「発見する能力」を組織として高めるためには、一体どうすればいいのでしょうか。大きく分けると、以下の2つが大切です。
・現場最前線に、できるだけ問題意識の高い人間を送り込む
・最前線のリアルな実情・現実の中で、有効な指標を考案する
戦略としての指標は、会議室で概念論をこねくり回すだけでは生まれません。理由は、現実の中で機能する指標こそ探しているものだからです。
次に組織として重要なことは、「問題意識の高い人間を現場最前線にどれだけ多く、頻繁に送り込むことができるか」です。
アンテナの感度が最高度に高い人間を、新戦略を生み出す可能性がある最前線の現場に送り出す。これはそこで営業をさせるというのではなく、現実の問題構造を見通す作業をさせるためです。
社長、重役が象牙の塔である本社や、製造工場に隣接する小ぎれいなオフィスにふんぞり返っている組織は、戦略発見能力があっという間に劣化し、大きな変化を乗り越えることはできないことになるでしょう。
「既存の業務を遂行する」ための組織ではなく、「新戦略を発見する能力がある組織」を目指す意識を持つことが何より大切です。
問題意識の高い人間を現場最前線にできるだけ多く、それも頻繁に送り込む。銃声が鳴り響き、敵の大砲や戦艦、敵の戦闘機が目の前で縦横に飛び交う、容赦ないマーケットの超激戦区・最前線です。
アンテナの感度が最高度に高い人間を、新戦略を生み出す可能性がある最前線の現場に送り出す。この作業を継続することで、「新たな指標」である戦略を見抜く能力を養うのです。