本誌が2007年9月22日号で報じた、朝日新聞社、日本経済新聞社、読売新聞グループ本社の大手紙3社による提携構想「ANY」。10月1日に正式発表された内容によると、インターネット上での共同事業以外に、宅配共同化なども含まれていたことで、業界への衝撃を増幅している。

 新聞社は系列販売店による宅配制度維持のため、多大な出費を強いられており、ここを共同化できればコスト負担が大幅に軽減、経営が楽になる。日経は、すでに全国紙、地方紙などの系列販売店に委託して新聞を配っているため、その余地は限られるが、朝日と読売にとって乗らない手はない。

 “勝ち組3社”からはずされた毎日新聞社、産経新聞社の危機感は想像に難くない。記者発表では、地域を限定したり、他社にも門戸を開いていくなどソフトさを強調したが、業界では「あからさまな覇権主義に動き出した」と、警戒感が広がっている。現に毎日は、日経が配達の委託先を毎日系列から朝日、読売系列の販売店に集約しようとしているとの情報を事前に入手。9月中旬、毎日の北村正任社長が日経に乗り込み、杉田亮毅社長に猛抗議したという。

 もっとも、3社の宅配共同化が実効性を上げるには、難題も多い。

 第1に、部数拡大の尖兵役だった販売店の整理。新聞社は販売店に対し、「押し紙」とも称される実売以上の部数を押し付ける反面、補助金を与えるなど、“アメ”と“ムチ”を使い分けて、部数を増やしてきた。当然、宅配共同化で販売店も減らす必要があるが、それは部数至上主義との決別も意味する。もちろん、新聞社の都合だけでは事は進まず、販売店に無理強いすれば軋轢(あつれき)が生じるのは必至だ。

 第2に、広告収入への影響がある。部数が右肩下がりの今、新聞社にとっても重荷である押し紙を一掃したいのが本音。しかも、消費税率が上がればそっくり税負担が増える。だが、発行部数が急減すると、部数に連動する広告収入にも響くため、ジレンマは大きい。

 第3に、読売と朝日の根深いライバル意識。両社首脳の記者時代の信頼関係が根底にあるとされるが、論調や部数で常に競ってきた相手と本当に手を組めるのか。「日経が緩衝帯」との見方もあるが、呉越同舟の危うさは否めない。

 それでも、3社で議論の素地ができた意味は決して小さくない。「“新聞幕藩体制”は終わった。今後、業界再編に突き動かす震源地になる」と、ある新聞社幹部は断言する。
(週刊ダイヤモンド編集部 新聞問題取材班)

※週刊ダイヤモンド2007年10月13日号掲載分