りんなという「ソーシャルAI」

坪井 まだ、AIに何ができるのか答えが出ていないところがありますよね。その中で、私たちが感じているのは、人と人の間で受け入れられながら存在することが大切だということです。
 人とAIの関係性で何がベストなのかは、まだ答えは出ていません。
 ただ、私たちが目指しているのはりんなという「ソーシャルAI」の存在によって、人と人とがもっと会話をするようになる未来です。
 AIをもっといろんなことができる存在にしていくというのが、私たちの大事な仕事です。
 先のテスターの話でもありましたが、AIは研究所内だけで完成できるかというとそうではない。
 いろいろなりんなのユーザの皆さんと触れ合い、その様子から、「こことここを直して…」と、試行錯誤しながら、成長させていかなければいけない。
 最新の研究をいち早くお客さまに提供し、その恩恵をぜひ感じていただきたいと、チームでやっています。
 ですから、密にユーザとコミュニュケーションを取っていきつつ、一緒によい社会、よい関係性というのを、共に創っていきたいなと、すごく感じています。
 りんなをうまく育てるには、エンジニアだけでもダメ。多くの皆さんの力をお借りしないと、よい子は創れないのかなと。

大村 IoT は今から13年前、2005年当時は「ユビキタス」と言われていました。その頃から興味を持ち始めて、この本を書くに至りました。
 でも、ずっと疑問だったのが、人間は、猫1匹いれば、別の猫を見ても、猫だとわかるのに、人間の脳を模したニューラルネットワーク(NN)を持ったAIは、なぜできないのだろうかと。
「グーグルの猫」も話題になりましたが、1000万枚の画像を見せなければ、グーグルも猫を認識できなかったのか。
 そのあたりを、りんなを開発した坪井さんの、ご意見をお聞きしたいなと。

坪井 人の脳は進化の歴史と共に学習結果が蓄積されて遺伝子として受け継がれる、ある意味「学習済み」の状態で、さらにその上で人は生きながら新しいことを常に学習していきます。
 ニューラルネットワークは脳が学習をする仕組みを模しただけなので、脳そのものではまだないのですね。人間の脳の仕組みを模したから、人がいちいちルールを書いて教えてあげる必要がなくなって、たくさんのデータを与えてあげるとネットワークが関連や特徴を学習するようになったというだけで、まっさらな状態なのです。
 なのでりんなの場合も、大量の会話のデータ学習させることでようやく話せるようになった。だからこそAIの開発にいま必要な視点は、「何をさせるのか」というところだと思います。人間の脳にはまだ解明されていないこともたくさんありますし、人工知能がさらに進化するには、まだまだ頑張らないといけないところがたくさんあります。

大村 「読唇術」なども今では人間を超えるAIが登場していますよね。次回は「りんな」の最新モデルについて教えてください。

坪井 わかりました!