「グリコ・森永事件」を圧倒的なリアリティで小説化して18万部突破のベストセラーとなった『罪の声』(講談社)から2年。塩田武士氏の最新作『歪んだ波紋』(講談社)が8月7日に発売となった。本作で軸に据えたテーマは「誤報」。自身初の短編集で彼が世に問うたのは、「情報の危うさ」と「人間の弱さ」だった。(聞き手/ダイヤモンド社 田中泰、構成/前田浩弥、写真/榊智朗)
「5つの短編」で
1つの長編小説を構成
1979年兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒。神戸新聞社在職中の2010年『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。2012年神戸新聞社を退社。2016年『罪の声』(講談社)で第7回山田風太郎賞を受賞、“「週刊文春」ミステリーベスト10 2106”で国内部門第1位となる。2017年本屋大賞では3位に。『騙し絵の牙』(KADOKAWA)もベストセラーとなり、2018年本屋大賞に2年連続ノミネートされた。最新作『歪んだ波紋』が8月7日に発売された。これまでの著作に『女神のタクト』『ともにがんばりましょう』『崩壊』『盤上に散る』『雪の香り』『氷の仮面』『拳に聞け!』がある
――『歪んだ波紋』、さっそく拝読しました。「5つの短編小説」として、それぞれが完結していながら、その5つが組み合わさって1つの長編小説になっている。すべての短編に“どんでん返し”があり、長編としても最後に、特大の“どんでん返し”がある。とても凝った構成で、読むほどに小説の世界に引き込まれて、気づいたら一気読みしていました。
塩田武士さん(以下、塩田) ありがとうございます。今回は11作目にして初の短編集に挑んだので、すごいプレッシャーのなかで書きました。
――短編集は初めてでしたか?
塩田 そうなんです。何度か短編にチャレンジはしたんですが、納得できなかったんです。短編というもののハードルを、自分の中ですごく高く設定していて……。
長編には、交響曲のような「流れ」がありますから、展開を緩やかにする場面があってもいい。しかし短編は、そういうわけにはいきません。簡潔なプロットで、一気に読者を「深い」ところまで連れていく必要がある。少ない文章量の中で、人間性と社会性を描き出し、かつ「おもしろい」と思ってもらえるものを書き上げなければなりませんから、考え出したら怖くなってくるんです。
――コンプレックスのようなものでしょうか? 塩田さんは常々、松本清張さんへの敬意を表明していらっしゃいますが、清張は短編の名手でもありました。あの高いハードルに挑むのはプレッシャーがあるということでしょうか?