「書の奉納」とは、
どんなことなのか?

Yumi:奉納っていうのは、具体的にどういうことをされるんですか?

伊藤:神事として行われます。神社とか仏閣とか、それぞれしきたりは違うんですけど、祭典の中で、奉納しますということを神様に告げてもらって、お浄めをしてもらい、その場で書を書いて、納めるという流れが多いです。

Yumi:その場合、書く文字は決まっているものなんですか?

伊藤:先方と相談することもあれば、一任されることもあり、それはまちまちです。でも、書いているときって、その場にいる人たちの思いも集中するので、僕は、そこに何らかのメッセージも重ねたほうがいいと思ってるんですね。だから依頼の文字と違っちゃうケースもありました。

Yumi:ええ~~!

伊藤:あるとき、全国一斉奉納といって、全国の護国神社で一斉に同日に、書を奉納するという試みがあったんです。そのときは『和を以って貴しとなす』という聖徳太子が定めたと言われている十七条憲法の言葉を、47社神社で書くってことだったんですけど…。

Yumi:伊藤さんだけ、違う言葉を書いたとか?

伊藤:はい。だって、それって、言われて書いているだけじゃないですか。神様に捧げて書くという行為ではないと思ったんですね。僕は、どっちかというと捧げるものを書きたいし、気持ちがこもっていないものは書きたくないって思って絶対、イヤだったんです。

Yumi:それで自分の気持ちを貫いた、と。

伊藤:はい、そのときは、ひらがな「わ」と3枚書いて、その中1枚を捧げました。

Yumi:それって、大丈夫だったんですか?

伊藤:はい(笑)。結果的にはひとりだけ違ってしまったんですが…。でも、きちんと神様と向き合って「捧げるものを書きたい」と思っていたので。

伊藤潤一さん対談【5】「書」を通すことで、時間や国を超えて交流