近年の帝人グループが展開する企業広告シリーズになぞらえれば、「米国での買収だけじゃない」となる。
8月22日、自動車メーカー向けの新ビジネスに注力する帝人は、ポルトガルに本社を置き、欧州で広域展開する複合材料成形メーカーのイナパル・プラスティコの全株式を取得し、完全子会社化すると発表した。買収金額は50億円前後とみられる。金額は決して大きくないが、昨年来の同社の迅速な動きには刮目すべきものがある。
順を追って、整理しよう。
まず、2017年1月に帝人は過去最大の約840億円を投じて、自動車向けのビジネスでティア1(自動車メーカーに直接納品する1次部材メーカー)と認定されている北米最大のコンチネンタル・ストラクチュアル・プラスチックス(CSP)を傘下に収めた。
帝人が持つ炭素繊維を扱う技術と、樹脂加工メーカーのCSPが得意とするガラス繊維強化樹脂の技術を組み合わせ、自動車の軽量化にフォーカスして動き始める。
通常、素材を販売する化学メーカーは、自動車メーカーの担当者と直接やりとりすることはなく、ティア2(ティア1に納品する2次部材メーカー)を通じて自社の新製品などを持ち込む。
ところが帝人は、自らが雲の上のような存在だったティア1になることにより、自動車メーカーと一緒になって素材の将来を考えるという“特別な立場”を得た。