「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」
「どうすれば、一生食える人材になれるのか?」
ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるそんな不安に、発売2ヵ月で10万部を突破したベストセラー『転職の思考法』で、鮮やかに答えを示した北野唯我氏。今回は、読者から届いた質問に公開でお答えする。
※北野氏がパーソナリティを務めるVoicy「そもそもラジオwithT」の収録内容をもとに編集。
(構成:井上慎平 テキスト起こし:ブラインドライターズ

大企業は仕事を避けたがる人ばかりだからむしろ得?

北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。2018年6月に初の単著となる『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』を出版。

今回も、前回に続き、『転職の思考法』を読んだ読者の声に回答していきたい。

この本にはいくつものメッセージを込めたが「ひとつだけ伝えられるとしたら?」と尋ねられれば、僕はおそらく「伸びている場所に身を置け」と答えるだろう。

伸びている仕事は、いわば自分のマーケットバリュー(市場価値)が勝手に上っていく、「魔法のエスカレーターに乗る」ことだからだ。どういうことか?
成長している仕事に対するニーズは、市場規模が広がっていくにつれ、どんどん高まっていく。新しい企業もどんどん参入してくる。
そのとき、あなたがこの市場に新たに参入する事業の責任者に任命されたら、どんな人間を採用したいだろうか? 間違いなく「先にその業界に飛び込み、経験を積んできた人材」を選ぶはずだ。つまり、伸びている仕事に就けば、あなたが何もしなくてもマーケットバリューは上がっていく。こういう構造だ。

だから、これから伸びるベンチャーに行くのは有望な選択肢にみえる。
こう書いたところ、読者の方からある感想を頂いた。
「大企業は仕事を避けたがる人ばかりだから、意外と経験を積めて、得なんじゃないですか?」

これは、おもしろい視点だ。
結論から言えば、答えは「仕事の種類により、イエスでもありノーでもある」。

企業のなかには、「経験につながる仕事」と「経験につながらない仕事」がある

若い人で、社内の上司に一度はこんなことを言われたことはないだろうか?
「若いうちは、仕事は買ってでもするもんだ。コピーを一枚とる仕事でも、自分からどんどん手を上げろ。それがいつか、きっと君の力になる」

最初に断っておく。これは半分正しく、半分嘘だ。
僕も、大企業にいたからわかる。率直に言えば、大企業であればあるほど、「この仕事にどんな意味があるのか?」と疑いたくなる仕事が存在する。

そのなかで「自分なりの工夫」をすることはたしかに重要だ。たとえば、僕が大企業の経理財務で働いていたとき、与信チェックという最高に面白くない仕事があった。これは、大量の紙の資料を見ながら、データベースに打ち込み、「与信額」を決めるだけの単純作業だ。

だが、それを僕は単に「面白くない」で終わらせるのではなく、自分なりのルールを作って楽しむことにしていた。たとえば「この企業の事業内容なら、売上総利益率はXX%ぐらいだろう」「自己資本比率はXX%ぐらいかな」と仮説当てゲームみたいに、楽しむようにしていた。また、1社あたりにかかる時間をストップウォッチで測り、「タイムアタック形式」にしていた。こうやって「自分なりに楽しむ工夫」をしていた。

だが、それでも、僕は「すべての仕事で学ぶことがある」は嘘だと思う。

冷静に考えて、コピーを必死に取り続けた人間が、一年、二年かけて何かしらの専門性を身につけることができるだろうか?その可能性は低いだろう。
「いや、コピーする資料を貪欲に読み込んで技術を盗むような新人が、ゆくゆく抜きん出た存在になっていくんだよ」
こういう反論があるかもしれない。
あえてはっきり言おう。そんなものは「詭弁」にすぎない。

僕は、新卒で最初に配属されたのが経営企画室だったこともあり、コンサルティング会社が製作した資料を見る機会があった。だから、僕はそれらをひたすら業務時間外に研究した。それぞれの資料づくりの癖、キラースライドへのメッセージの込め方……たしかにそれらの資料を読み込んで学んだことは計り知れない。だが、待ってほしい。僕はそれを本当に「コピーしながら」学ぶ必要があるだろうか?

「コピー一枚、必死に取り組め」の話は、「おっちゃん」たちが若手に「この仕事、意味ありますか?」と言わせないための詭弁にすぎない。
本当に考え抜いたのなら、組織にとっても自分にとっても、同じ時間でコピー以上の価値を生む仕事は、いくらでも見つけられるはずだ。それを探さないのは、単なる思考停止にすぎない。

今の花形部署は、未来の「オワコン」かもしれない

では、大企業でしかできない「おいしい」経験など、存在しないのか。じつは、そうとも言えないのだ。
もしあなたが大企業でこれからキャリアを築こうと考えているなら「今は社内で注目されていない、成長率の高い部署」は検討したほうがいい。そこには、「ほぼノーリスク・ミドルリターン」という、とっても「おいしい」チャンスが存在するからだ。

僕の友人で、新卒でテレビ局に入社後、すぐに「オンデマンド事業」に配属になったやつがいる。
テレビ局を目指している人にとっての「花形」といえば、やはりディレクターやプロデューサー、つまり「制作」の部署だろう。だから配属が決まったとき、周囲の人は口々に「あいつは終わった。もう出世はないな」とつぶやいたらしい。オンデマンド事業部は人数も少なく、期待もかけられていない分予算も少なかったからだ。
それでも、彼は前向きだった。誰よりもITが好きで、当時「オワコン」と呼ばれ出していたテレビ業界を、むしろITの技術で救えるかもしれないとすら考えていたからだ。
その彼は今、彼は他の事業部の全合計を上回る利益を、オンデマンド事業だけでたたき出している。

この話の教訓はこうだ。
「今の花形は、未来のオワコンになりうる」
「どんなに規模や予算が小さくても、伸びる分野に身を置け」

大企業で部署を移るときに考えるべきたったひとつの基準

うちの会社には確実に伸びる部署なんてない、そんなものがわかれば苦労しない。そう思うかもしれない。
だとすれば、ゼロからイチをつくればいい。
大企業は今、どこもイノベーションに苦しんでいる。だから、ほぼどの会社にもすべて「新規事業開発室」のような部署があるはずだ。そこに入って、ひたすら事業の立ち上げに挑戦すればいい。

もしもこれがベンチャーだったら、「失敗=倒産」だ。自分のキャリアをどうつくるかなんて考える間もなく、強制的に仕事を失う。
だが、大企業で失敗したら? ジョブローテーションで、また違う部署に行けばいいだけの話だ。

もし成功したら、次の収益の柱として、その部門は、どんどん大きくなっていく。そこで経験を積んでいけば、あなたは「上りエスカレーター」の先頭に立つことができるだろう。

成熟した企業のなかで「おいしいキャリア」を積みたいなら、売上や予算ではなく、事業の「成長率」を見るべきだ。

日系企業は、じつは外資よりはるかに「自由」だ

ただ、そうは言っても、この記事を読んですぐに異動届を出す人は多くはないだろう。そこには、「評価の壁」がある。
「自分から手を挙げておいて失敗したら評価がさがってしまう」
「一度花形の部署を離れたら、もう戻ってこれないかもしれない」
これについて、以前スタートトゥディに転職された田端信太郎さんと対談したときの言葉が印象に残っている。

彼いわく、大企業のほうがサラリーマンは「自由」だという。つまり、やりたいこともやれるし、言いたいことも言えるのだ、と。
「だって、査定で差がついたとしても、せいぜい1万円や2万円でしょ。そんなの、何がリスクなんですか?」
たしかに、そうだ。
外資系と違い、日系の大企業であれば、給料に大きな差がついたり、ましてやクビが飛ぶわけでもない。
『転職の思考法』でも書いたが、優先すべきは目先の上司の評価ではなく、マーケットの評価なのだ。

「大企業は、仕事を避けたがる人ばかりだからむしろ得」説は、半分は正しい。
だがそれは、「なんでもいいから目の前の仕事を一生懸命こなし続ければいい」という単純な話ではない。

何が、自分のマーケットバリューを高めるのか?
この視点さえ持てれば、大企業でキャリアを積むという選択肢も、有望な選択肢だろう。『転職の思考法』では、この価値を伝えている。