視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
福岡はイノベーションとエンタメの
聖地を抱えるアメリカ西海岸に似ている?
読者諸兄には、いつか暮らしてみたい土地があるだろうか? 私は、学生時代を過ごした京都でもう一度暮らしてみたいと思っている。
理由はいくつかある。
まず、京都はある程度の都会なので、都市部で手に入るようなものはたいていそろっている。その一方で周囲を見渡せば山が見える。鴨川という大きな川が市街地を流れてもいる。
つまり、都市と豊かな自然が、調和を保ちながら同居している。そこが私の好みに合っていて、居心地がいいのだ。
街のサイズがコンパクトなのもいい。市内での用向きは、ほとんどの場合バスや自転車による短時間の移動で済ませられる。
ところが最近もう1箇所、ある土地に住みたいという気持ちが高まってきた。福岡県糸島市だ。大学の後輩がそこでライブバーを開いたのをきっかけに、昨年は3回も遊びに行った。
糸島の美しい海をはじめとする豊かな自然は素晴らしい。それでも福岡市街地との距離は電車で30分ほど。意外と便利なのだ。
糸島に居住し、のんびりと自然の中で生活しながら、仕事は福岡の中心部でする。そんな暮らしができれば最高ではないか。そんなふうに思うのだ。
本書『福岡はすごい』は、そんな私の気持ちを駆り立ててくれた。
著者の牧野洋氏は、慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールを修了。日本経済新聞社でニューヨーク特派員や編集委員を歴任し、2007年に独立したジャーナリストだ。多数の著書や訳書があり、本連載で紹介したことがある『STARTUP スタートアップ』(新潮社)の翻訳も手がけている。
牧野氏は、2008年から2013年まで、家族で米国カリフォルニア州に居住していた。その後帰国し、一家で福岡での暮らしを始める。2016年春からは東京に住み、現在は早稲田大学大学院ジャーナリズムスクール非常勤講師も務める。
カリフォルニアがある米国西海岸と日本の福岡、両方に居住経験のある牧野氏は本書で、福岡は「日本の西海岸」だと主張。自らの実体験からの論を多くの関係者への取材で補強し、それを検証している。