「たとえば、20代のころに比べると、集中力や記憶力が落ちたという自覚はないかな?」
スコットはニコニコとしながら、私の痛いところを突いてくる。彼の言うとおりだった。昔だったら、何時間もぶっ続けで仕事に集中できたのに、最近はついほかのことを考えてしまう。勤務時間中に気が散ってしまいがちなのは、サトシに振られたことだけが原因ではなさそうだった。
「脳細胞にもテロメアがあるんですか?」
「もちろんじゃ! そしてテロメア短縮は、脳細胞の老化ともダイレクトにつながっておる。テロメアが長い人は、記憶力も良好だったという報告もあるぞ(*)。脳細胞のテロメアを維持できていれば、たとえ年齢を重ねても、冴えた脳を維持できるんじゃ」
真っ先に浮かんだのは、やはり祖母のことだった。彼女には明らかにアルツハイマー病の症状が出ていた。出発前に「これから会いに行く」と連絡したのに、私が到着したときにはそのことをすっかり忘れていた。
それに昨日、私が近づいてもカルビンに言われるまで私のことに気づかなかった。記憶力だけでなく、認知機能も全体的に衰えているようだ。彼女のテロメアを修復することができれば、ひょっとすると……。
「スコット、脳の老化を食いとめる方法はないの? あるなら教えて!」
老人は私の考えを読み取ったようだ。また甲高い奇妙な笑い声を立てている。
「まあ、焦るな焦るな。なんとかしたい気持ちはわかるが……今日はここまでじゃ」
そう言って彼はロッキングチェアから立ち上がり、部屋の奥にあるベッドに横たわった。
「……え? ど、どうして?」
私の問いに彼は目を閉じたまま答える。
「それはもちろん……疲れたからじゃ! 年寄りにあまり無理をさせんでくれ」
「……!」
私は言葉を失った。人を世間話に付き合わせておいて、話すだけ話したら「疲れた」などと言って昼寝をはじめるとは……。これだから老人は嫌だ。
「また来週金曜のこの時間に会おう」