「新しいことを学べない脳」は、どこにカスが溜まっている?

「脳の部位によって、カスの溜まり方や萎縮スピードにも違いがあることがわかっているぞ。たとえば、アミロイドβは外側の大脳皮質から内部の海馬へと向かって増えていくが、タウは逆に、海馬から脳全体に拡散していく。
記憶に問題のない70歳の人の3分の1にも、相当のアミロイドβ蓄積は見られるから、シンプルに『老廃物の蓄積=認知・記憶の障害』というわけではない点にも注意が必要じゃな」

「『どんなカスが、どこに、どれだけ溜まるか』によって結果は大きく変わってくる、ということね?」

彼の話になんとかついていこうと、こちらも頭を必死にフル回転させる。スコットは満足げにうなずく。

「アルツハイマー病患者では、側頭葉と頭頂葉、後帯状皮質、そして後に前頭葉でアミロイドβの蓄積が観察されるが、より記憶機能と関連するのは、タウの蓄積のほうではないかと言われておる。
タウ蓄積の主戦場は海馬とその周辺の側頭葉で、海馬が担う近時記憶(数分から数日程度の記憶。エピソード記憶が含まれる)がダメージを受ける。より短い記憶である即時記憶には前頭葉や頭頂葉が使われておるし、昔あったことに関する長期的な記憶(遠隔記憶)の機能のほうは、側頭葉や大脳皮質のいろいろな場所にストックされておるから比較的保たれる。しかし、病気の進行とともにタウの蓄積が側頭葉や頭頂葉、そして大脳皮質全体に広がっていくにつれて、脳の機能は全面的に崩壊していくことになるんじゃ(*)」

* Dani, M., Brooks, D. J., & Edison, P. (2016). Tau imaging in neurodegenerative diseases. European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging, 43(6), 1139-1150.

ここまで一気に話したところで、彼は手元の緑茶をすすった。つられて私も一緒にお茶を口にする。

「……脳の老化メカニズムが、ここまでわかっているなんて……正直、驚いたわ」
「脳の老いを引き起こす老廃物の存在は、それを測定できる技術が出てきて初めて注目されるようになった。その代表格がPET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)という画像検査じゃ。どれ、一つ面白いものを見せるとしよう」

スコットは手元のタブレット端末を操作して、動画を立ち上げた。
最初は紫色だった脳の断面画像だったが、いくつかの部分の色が次第に変わっていき、黄や赤の部分が増えていく(**)。

** Bateman, R. J., Xiong, C., Benzinger, T. L., Fagan, A. M., Goate, A., Fox, N. C., ... & Holtzman, D. M. (2012). Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer's disease. New England Journal of Medicine, 367(9), 795-804.