杉江社長は、そもそも営業利益目標のハードルを350億円に下げた上で、数々のリストラに着手した。詳細を図2に記したように、不採算店舗を閉じ、赤字の子会社を清算したり株式を外部に取得させたりしたほか、早期退職者が増えるように退職金の積み増し額を増やした。

 その結果、18年3月期は特別損失により最終赤字になったものの、翌19年3月期には、営業利益を約46億円押し上げるという。確かに、短期的に営業利益が改善するであろうことは見て取れる。

 しかし、杉江社長が盛んに「高過ぎる」と喧伝する販売費および一般管理費の推移(図3)を見れば、過去の大西体制下から杉江体制下での計画まで、一貫して3000億円台前半で推移する見通しであり、大きな変化はない。

 設備投資は、21年3月期までに1000億~1500億円を計画している。これも、伊勢丹新宿本店と日本橋三越本店の第2期リニューアルに加え、冒頭の日本橋の接客に見られるようなデジタル技術の導入など、誰が社長であれ必要となる投資にすぎない。

所詮はお家騒動
社長が交代しても社員の士気は低下

 そもそも同社の財務体質を見れば、図4のように、利益率はともかく、自己資本比率や流動比率は同業の大手2社と大差ない。また、杉江社長が問題視してきた販管費を売上高比率で見ると、高島屋をやや上回る程度だ。

 もちろん、今後大幅な成長が望めない百貨店業界において、業務の効率化は欠かせない。

 とはいえ、大西前社長の退任劇を振り返れば、批判の的となったのは、「他の幹部とのコミュニケーションが足りない」とか「社内よりマスコミに先に方針を話す」といった俗人的な事柄が多い。業績とは関係の薄い“お家騒動”のように映る。では、杉江体制になって社内の風通しが良くなったのかといえば、同社のある関係者は「物言えば唇寒し、の雰囲気はより強まった」と話しているほどで、社長交代の意義は薄い。

 そんな杉江社長のコストカットの切り札として市場関係者が期待する早期退職制度だが、黄信号がともった。昨秋に急きょ、早期退職者を募集した際に掛かった費用は43億円。杉江社長はこのとき「今年度は(制度を周知する)時間がなかった。(翌期は)それなりの人数が手を挙げてくれるのではないか」と述べていた。

 だが実際、今期の前半のそれは約14億円にとどまった。同社が「ネクストキャリア制度」と呼ぶこの仕組みは、いわゆる“肩たたき”をせず社員の希望に委ねる手法であるため、応募者が大幅に減ったことを示している。

 それでも杉江社長は「早期退職の応募者が少なくても、採用の抑制で(総人件費を)調整できる」とも語っていた。

 しかし、斜陽産業といわれて久しい百貨店業界にあって、優秀な学生の採用は容易ではない。将来会社を支える人材の募集についてさえ、ちゅうちょなく近視眼的に語ってしまう杉江社長。就任直後から上がっていた「リストラをするばかりで、目指す会社の将来像が見えない」との批判は、今なおくすぶり続けている。