「なぜこの町を選んだのか」との問いに、友人は「深センでは工場用地をなかなか確保できないし、労働力の確保も難しい。ここは広西とはいえ広東に一番近い町なので、人員と物資の移動もしやすいからだ」と答えた。

大都市部とその近隣から
奥地へ産業が移動

 ほぼ同じころに、浙江省の友人からも視察を依頼された。訪問先は桐廬県にある経済開発区だ。杭州市が管轄する県ではあるが、近いうちに杭州市に属する区になるだろうと噂されている。隣の富陽県が、一歩先に杭州市の区に変わったこともその噂の真実性を高めている。

 民営企業が多く、経済も最も進んだ地域と評価されている浙江省なので、その経済開発区も「アルファ」という民営の会社が、地元政府に代わって工場建設や企業誘致の作業を行う。梧州市と違って、私たちの視察には政府関係者がほとんどタッチしていない。誘致対象も人工知能、ロボット関連の企業にターゲットを絞っている。

 桐廬県内を流れる川は、富春江と呼ばれる川だ。江南の景色に最もフィットしている川として名高い。文化大革命時代、私が農村に強制移住させられたとき、同級生のお姉さんが桐廬に「下放」したのを聞いて非常にうらやましかった。豊かな農村地域だと知っているからだ。

 桐廬または富春江といえば、多くの中国人はすぐに「富春山居図」という名作が思い浮かぶ。これは元の時代の画家黄公望(1269-1354)が晩年に描いた入魂の傑作で、「中国絵画史上比類ない名画」と評価されている。その絵には富春江沿い山と川の風景が描かれている。

 しかし、地元の村に入ってみたらびっくりした。新築の建物ばかりの村なのに、人気がしない。案内してくれた地元の責任者の話によると、子どもが大きくなって都市部に移住してしまったから、その親たちも一人っ子の子どもと同居するようになり、村がいつの間にか無人同然の状態に陥ってしまった。

「企業誘致するためには、生活環境を確保しなければならない。そのために村の再建に今は力を入れているところだ」

 こう説明した地元の責任者の顔には、寂しい表情が浮かぶ。

 アルファの企業誘致担当責任者になぜここを選んだのかと尋ねたら、交通の便がよく、地元政府も熱心だという答えが戻ってきた。

「しかし、肝心な労働者がいないのでは」と詰めたら、その責任者は「ここは豊かだから、ほかの地方から労働者を呼べる」と胸を叩いた。

 中国の産業都市が、大都市とその近隣から奥地へ移動している。その現状を垣間見た気がした。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)