ゴッホの「自画像」の裏側

 フィンセント・ファン・ゴッホも40点近い自画像を描いていますが、遺された膨大な書簡によって、それらが描かれた際の彼の精神状態をうかがい知ることができます。たとえば、1889年に描かれた『自画像』は、自らの耳を切り落とすという事件を起こした彼が、サン=ポール・ド・モーゾール療養院に入院中に描かれたものです。

フィンセント・ファン・ゴッホ『自画像』
フィンセント・ファン・ゴッホ『自画像』1889年、65×54.5cm、オルセー美術館

  数ヵ月ごとに激しい発作に見舞われることがわかっていた彼は、次の発作が起こるまでに、自分の精神状態を制圧し、猛烈な勢いでできる限り多くの作品を描こうとしました。そのため、不安や恐怖といった緊張感が、背景の長くうねった躍動感のある筆遣いとして表れているのです。

 このように、現代に至るまでの画家たちの自画像には、往々にして強い自意識やメッセージ、そして当時の感情などが、さまざまなかたちで浮き上がっているのでした。