実際、『男はつらいよ 寅次郎子守歌』では車一家に対し、タコ社長が珍しく真剣な面持ちで、以下のように反省の弁を述べるシーンがあります。

「今日はホントに皆さんに心配かけて申し訳ない。狭い所に無理して機械置くと、こういうことになっちまって。(略)いや、俺が悪いんだよ、すぐ労災の手続きして治療費は全額…。ホントに申し訳ない」

 タコ社長が言っている「労災」とは「労働災害」の略称。事業主が保険料を全額負担する形で、労働事故に備えた保険制度が整備されており、タコ社長は労災の保険を申請することで、博の治療費をカバーしてもらうと言っているわけです。

 その後、映画では御前様(笠智衆)が見舞いに来たり、急に帰宅した寅さんが竜造とケンカしたりするのですが、労働衛生という政策が必要な理由として、相対的に立場が弱い労働者を守る目的があることを理解できます。

手首を落とした労働者の話
吉永小百合の青春映画

 これに近い話は1964年公開の『風と樹と空と』という映画でも少しだけ出てきます。

 主人公の沢田多喜子を演じたのは吉永小百合。映画は冒頭、多喜子と母親のたま子(菅井きん)が津軽弁で話している場面から始まります。青森県の農家で生まれた多喜子は集団就職で上京し、金持ちの家に住み込む家事手伝いとして働こうとしているのです。

 その後、多喜子は慣れない仕事や東京の生活に苦労したり、恋愛に悩んだりするのですが、あけっぴろげな性格と言動、そして一向に抜けない津軽弁で明るく乗り越えていく設定になっています。

 労働衛生が関係する場面は最後です。多喜子と同じタイミングで上京した幼なじみの手塚新二郎(浜田光夫)は多喜子に恋愛感情を抱いていたのですが、郷里に帰ると告げます。新二郎は職場でイライラし、工場の次長を殴ってしまったことを明かし、その理由を以下のように話します。

「オラと寮で同じ部屋だったやつがベルトに右手巻き込まれてまって、手首を落としてまった。ベルトがむき出しになってて危ねえからと、前からしゃべっていたんだけども。(注:会社側は)本人の不注意だって言うんだ」