人生で「事を起こす」よう、
背中を押してくれる存在

 私のドラッカーとの出会いは、ドラッカーがマネジメントについて論じた最初の著書『現代の経営』にさかのぼります。

 高校時代、喀血をきっかけにしたサナトリウム生活を経て、5年かけて高校を卒業し、大学1年生になったときのこと。私はたまたま手にしたベストセラーのビジネス書『現代の経営』を読み、夢中になりました。そして文明とは事業の積み重ねだと感じ、こんな本を書きたいと自分なりに資料を集め始めたのです。『リーダーズ・ダイジェスト』のバックナンバーを漁ったことを、今でも鮮明に覚えています。

 しかしそうは問屋がおろしませんでした。なぜなら、本を書くのとは別のことに夢中になってしまったからです。

 ある日の友人との会話から生まれた「アメリカに行ってみよう」という思いつきをきっかけに、外貨が制限されていた時代、日銀から渡航審査会、日本経済新聞まで巻き込んで渡米資金を取り付け、アメリカの大学で講演行脚を行ったのでした。

 そう『現代の経営』は読み手を変えてしまうのです。「価値あり」と思ったならば、「自分でやろう」と体が動いてしまう。「価値あり」と思うものすべてが事業に見えてくるのです。

 のちにさまざまな読者から「ドラッカーは背中を押してくれる」という感想を得ることになりましたが、まさに「背中を押してくれる」「自ら動くように仕向けてくれる」のです。

 そして経団連への就職後、『抄訳マネジメント』の提案をはじめとする日本発のドラッカー著作の企画の提案と実現、経済広報センターの設立、各種国際会議、対米・対欧ロビイング。そして、ものつくり大学の設立、ドラッカー学会の設立……。

 私の人生におけるドラッカーとのかかわりは、著作の翻訳のみならず、「事を起こす」というかたちで、深く結びついていたように思うのです。