ドラッカーを読みたいけど、何から読んだらいいかわからない。そんな声に応えるべく、これまでドラッカー作品の多くを翻訳し、ドラッカー本人からも絶大な信頼を得てきた訳者の上田惇生さんが、最近、「ドラッカーの完全ブックガイド」をまとめた。ドラッカーとはどんな存在なのか、なぜドラッカーはマネジメントに情熱を注いだのか? ひと仕事を終えてまだ興奮冷めやらない上田さんに、改めてドラッカーの魅力を語ってもらった。   

マネジメントだけではない
現代社会最高の哲人

 ドラッカー教授と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか。「もしドラ」ブームを受け、すっかり「マネジメントの人」というイメージが定着してしまっているかもしれません。

 しかし実際は、政治、行政、経済、経営、歴史、哲学、文学、美術、教育、自己実現など、見事なまでに多方面の領域をカバーする、現代社会を読み解く最高の哲人でした。

 1909年11月19日、オーストリアはウィーンに生まれ、2005年11月11日、アメリカ西海岸クレアモントの自宅で96歳の誕生日を目前にその生涯を閉じるまで、単著だけでも40冊、アンソロジーを入れたら50~60冊を超える著作を残しています。

 産業革命が人々の心に与えた影響を目のあたりにし、そして世界を揺さぶる二つの大きな大戦を経て、ドラッカーはよき社会とは何か、一人ひとりの幸せとは何かを追求し続けてきました。

 そして、よき社会を実現するための事業への取り組み方、ものの見方、組織のあり方、仕事の仕方を教えました。マネジメントとは、ほんのその一部にすぎません。

 これらは、政治家や官僚、学者や評論家だけのものではありません。何かをしようとする人全員にとって大事なことだったのです。

 それゆえに、ドラッカーのいう事業とは、ビジネスだけを指すのではありません。「事を起こすこと」「行動を起こすこと」「成し遂げること」を広く含んでいます。ドラッカーは本質的な意味で事業とは何かを教え、事業への取り組みを教えました。