脳のネットワークを構成するのは神経細胞(ニューロン)であり、この神経細胞同士をつなぎ、シグナルを伝達する部分が「シナプス」だ。出力側からは電気的な信号によって神経伝達物質が放出され、受け手側の受容体がこれをキャッチすることで信号を伝える。このつなぎ目こそ極めて重要であることが分かってきた。
シナプスには「可塑性」(シナプスの活動状態によって伝達効率が変わる)があることによって、私たちはさまざまなことを記憶したり、学習したりできる。信号をうまくつなげられるかどうかだ。
このシナプスを作る材料そのものは皆が持っており、私たちのDNAの中にその情報が入っている。そのもともとの材料に異常があったら、作ろうにも作れない。自閉症患者の遺伝子を調べると、こうしたシナプスの形成に関わる遺伝子に異常があるケースが見つかった。内匠氏らが研究しているのもその一つだ。
自閉症に関わる遺伝子は少なくとも800あるといわれている。多くのものはシナプス関連であり、もう一つはクロマチン構造という遺伝子の発現にとって非常に重要な仕組みが関わることが判明してきている。
自閉症のように遺伝的な寄与度が高いものは、「サイエンスによって解決できる余地が大きい」(内匠氏)ことを意味する。
実際、欧米では子どもの自閉症研究に莫大な資金が投じられ、それがシナプス研究を引っ張った。統合失調症やうつ病も、シナプスの異常が関わることが分かってきている。発達障害の研究はけん引役と期待されているのだ。