日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由『日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由』
塚崎公義著(河出書房新社/1500円)

 経済を語る上で、「楽観論は知的ではない」と思われがちなこともあり、日本経済の問題点やリスクを多々指摘する書籍が世間には溢れている。

 そんな中で本書は、世の人々は“悲観論のバイアス”に晒されているという認識が必要だとする。労働力不足が好景気をもたらすため、日本には輝かしい未来が待ち受けていると説く点が興味深い。

 1章では、バブル崩壊後の日本経済が長期不振を続けていた原因を扱う。2章では、少子・高齢化による労働力不足で、バブル崩壊後の日本経済の問題点の多くが自然に消滅したと解説する。3章は、日本の財政は破綻しないことを、4章では日本的な経済システムが素晴らしいものであることをそれぞれ示している。5章は、将来に向けて今から行うべきこと、そして6章ではサブシナリオ(次善の策)についても展開している。

 特に、1章でバブル崩壊後の長期不振の真因を「合成の誤謬」と解説する部分には説得力がある。日本は、バブル崩壊後も人々が勤勉に働いたから大量の物が作られ、人々が倹約したから大量の物が売れ残り、企業が物を作らなくなって失業が増えたとする。

 2章では、“団塊の世代”などが定年を迎えて、自発的かつ永久に失業を引き受けてくれることにより、主婦や高齢者の「隠れ失業」や正社員登用でワーキングプアの待遇改善などが進む。さらに、「同一労働同一賃金」への圧力が強まることから、ブラック企業の存続も不可能になる。労働力不足の賃金上昇により、デフレが終焉するといった主張が展開される。

 3章では、日本の財政についても丁寧に論じられている。著者の塚崎公義氏は、日本政府の財政は破綻せず、財務省の「財政赤字の問題」は的外れとしている。財政赤字の問題点は、「人々が財政破綻を恐れて倹約する」こととする。極論すれば、日本の人口が減っても、子どもが家計金融資産1800兆円を相続するため、何の心配も要らないと主張している。

 評者が共感したのは、景気は税収という「金の卵」を産むニワトリであり、無駄の削減だけでは財政赤字はなくならないばかりか、社会保障負担増などにより増えてしまう可能性もあるとしている点である。また、財政赤字は、世代間の不公平ではなく、遺産が相続できる子とできない子の間の世代内不公平とし、相続税率を引き上げて縮小すべきとしている。

 なお、本書は、所々に初心者向けの「解説」コーナーがちりばめられている。経済の基礎的な知識を身に付けたい初心者には、格好の入門書となるだろう。

(選・評/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 永濱利廣)