有価証券報告書への報酬未記載や、住宅などさまざまな個人的利益を日産から受けていたといった報道が連日出ているゴーン容疑者。これらは果たして、どの程度の罪になるのか。また、ゴーン容疑者以外の日産経営陣の責任はどう考えるべきなのか。会計の専門家で、青山学院大学名誉教授の八田進二氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)

<論点1>
「退任後の報酬」は記載すべきか?

ゴーン容疑者の不正を会計視点で読み解きます驚くような不正の数々が明らかになってきたゴーン容疑者。今後一体、どんな罪に問われていくのだろうか? 写真:ユニフォトプレス

――ゴーン容疑者の逮捕容疑は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)。2010年から5年間にわたって毎年、役員報酬の約10億円、合計50億円を記載しなかったというもので、その後の3年間(30億円)分も合わせて80億円になるとの見方もあります。

 高額な報酬という批判を避けるために、毎年の役員報酬20億円のうち、半分の10億円を「退任後に受け取る」という契約にし、その年の有価証券報告書には記載しなかった、ということのようですが、原則としては、これはアウトです。「退任後なら、役員退職慰労金扱いであり、今は記載する必要はないのでは」との見方もあるようですが、役員退職慰労金とは在任年数などを勘案して、退職時に決めるものです。「2010年は10億円、2011年も10億円」といった具合に毎年、金額を決めて契約していたのなら、それぞれ当該年に会計処理すべきです。

 ただ、この約束が単に「それくらい払うよ」という、一種の希望的観測じみた効力しかないようなものならば記載の必要はない、という解釈もなくはない。その辺りは、会社がどういった処理をしているかを、詳しく見ていかなければ分からないでしょう。

――さらに、株価に連動した報酬を受け取れる「SAR(ストックアプリシエーション権)」も約40億円分、開示しなかったとされています。

 次々に明らかになっていることを一言でいうと、ゴーン容疑者は会社の財産をほしいままにしてきた、ということです。検察は最終的には特別背任を狙っているのではないかと思います。

 ただし、特別背任は検察側が越えるべきハードルが高いのも事実。どういう意思決定プロセスを経ていたのか、本当にほかの取締役は一切知らなくてゴーン容疑者の独断なのか、などといったことをきっちり詰めて行かなければいけませんから、相当時間がかかるだろうと思います。