簡単に「仲間」を見つけられる

 ハーヴェイ・ワインスタインや彼をのさばらせた業界の閉鎖的な階級システムが「オールドパワー」の実態を物語っているいっぽうで、ワインスタインの失脚やそれ以降の展開を見れば「ニューパワー」の仕組みと重要性がよくわかる。

 ワインスタインが女性たちに告発されたことがニュースで報道された数日後、女優のアリッサ・ミラノが、セクハラや性的暴行を受けたら「#ミートゥー」(#MeToo)というハッシュタグを使ってツイッターでシェアしよう、と女性たちに呼びかけた。

 女優のテリー・コンが、これに注目した。20代のころ、新人女優としてドラマに出演していた彼女は、映画監督のジェームズ・トバックに声をかけられ、ある役のことで話をしたいからセントラルパークで会おうと言われた。のちにCNNの取材で語ったとおり、彼女がそこへ行ったところ、トバックから性的暴行を受けた。

 その記憶は何年ものあいだ封印されていた。しかし、世間の注目がハーヴェイ・ワインスタインに集まり、ミートゥー・ムーブメントが一気に沸き起こったことで、記憶がよみがえった。コンはそのことを夫に打ち明け、行動に出た。

 まずはツイッターで、「#ミートゥー」と「#ジェームズ・トバック」(#JamesToback)のふたつのハッシュタグを使っているツイートを検索した。すると、自分の体験と酷似している被害を受けた女性がたくさんいることがわかった。

 女性たちはともに助け合い、さらなる被害者を見つけるため、ツイッターで有志のグループを立ち上げた。そして、このグループのメンバーたちが『ロサンゼルス・タイムズ』紙の記者に自らの体験を話した。

 新聞に記事が掲載されるや、わずか数日で300人以上もの女性たちが声を上げ、トバックから性的被害を受けたことを告白した。

 コンのみならず大勢の人がこのキャンペーンを繰り広げた。「#ミートゥー」を使ったツイートが、48時間で約100万件も投稿されたのだ。フェイスブックではコメントや投稿やリアクションが、わずか一日で1200万件にも上った。

「自分には力がある」と感じられる

 ミートゥー・ムーブメントはうねりとなって世界中を席巻し、各地のコミュニティはそれぞれのターゲットに向けて応用した。

 フランスでは「#豚野郎を告発しよう」(#BalanceTonPorc)として、ハラスメントの加害者の実名を挙げて糾弾した。イタリアでは「#あのとき起きたこと」(#QuellaVoltaChe)として、女性たちが被害体験を告白した。

 ムーブメントは各業界に次々と波紋を広げた。アメリカ連邦議会の女性議員たちが、男性議員からハラスメントを受けたことを告白。イギリスでは国防相が辞職に追い込まれた。欧州議会でもミートゥー・ムーブメントが起こった。

 ビジネス界のリーダーたちもセクハラを暴露され、失脚に追い込まれた。パリやバンクーバーなど世界の各都市では、抗議に集まった人びとが街路を埋め尽くした。インドでは、著名な大学教授らによるセクハラを暴露する動きをめぐって、論争が起こった。

『中華日報』は、職場のセクハラや性的暴行は欧米社会特有の問題だと指摘する記事を掲載したが、ネット上での批判の高まりを受け、数日後には公式ウェブサイトから記事を削除した。

 このムーブメントには主導者が存在せず、どう展開するかは誰にも予想がつかなかった。じつは、「ミートゥー」というスローガンが誕生したのは10年以上も前で、アメリカの市民活動家タラナ・バークが、黒人女性を中心とする性暴力の被害者に対し、つらい体験を互いに打ち明け、連帯しようと呼びかけたのが発端だった。

 だがいまでは、主導者がいないように感じることこそが、ミートゥー・ムーブメントの力の源になっている。ムーブメントに共感した意欲的な政治家から、「MeToo」の文字でアクセサリーを開発したやり手のデザイナーまで、さまざまな人びとが集結した。

 ミートゥー・ムーブメントのもっとも顕著な特徴は、参加者たちが「自分たちには力がある」と感じられたことだった。

 長年、無力な自分には加害者を止められないと思い込み、報復を恐れていた多くの人たちが、突如として、加害者らに立ち向かう勇気を得たのだ。

 大きなうねりに背中を押され、一人ひとりが告発に踏み切った。ひとりの勇気ある行動の陰には、多くの仲間たちの存在があった。

後編に続きます。なお、本原稿は『NEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろ』からの抜粋です)