これまで水産庁や全国漁業協同組合連合会(全漁連)などの漁業団体は「日本は漁業者による自主的な資源管理が成功している国」と主張し、IQの導入には反対してきた。漁業権についても規制緩和を拒んできた。東日本大震災後に設定された漁業特区で、流通業者と漁業者が組んだ漁業生産会社が漁業権を取得しようとしたが、県の漁連などが「浜の秩序を乱す」と激しく反対運動を行ったこともあった。
「法改正で改革が進めば、漁業者の所得が改善される。政治主導による改革の好例になるのでは」と行政改革推進本部本部長補佐として法案策定に関わった自民党の小林史明衆議院議員は期待する。
とはいえ、法案を現場に落とし込む省令を作るのは、これまで実質的に日本の水産業改革の最大の抵抗勢力となってきた水産庁だ。改正案について「漁業権は既得権者が結局優先順位1位となっており、具体的な資源回復の目標数値や、TACについて科学的知見を基にするなどの方針も明記されていない。恣意性が入る余地が大きく、今後の運用次第ではむしろ後退する可能性もある」と小松正之・東京財団上席研究員は懸念する。
IQの導入には、持続可能な漁獲量を算出し、それを漁業者に分配する調整が必要になる。先行してIQを取り入れた新潟県のエビ漁の例では、従来の早い者勝ちの漁獲ではなく、市場価値が高い時期に計画的に獲ることで、実際に漁業者の手取り収入が上がった。経済学者や税理士、流通業者、消費者などと議論しながら制度をつくったという。緻密な運用体制と、ぶれない姿勢が求められる。
一方、これまでの水産庁の“調整”は甚だお粗末な結果に終わっている。クロマグロ漁をめぐる顛末がその一例だ。
この10月、北海道の漁業者が国と道を相手取り訴訟を提起した。道内の別の漁業者が、大幅に漁獲枠を超過したため、北海道全体の漁業者が連帯責任で長期間の禁漁を余儀なくされたからだ。
資源が枯渇しているクロマグロは国際会議で国ごとの漁獲量制限が課せられ、日本は初めて“国際水準”での資源管理を求められた。ところが実際には、漁獲枠を順守させる管理がザルで、訴訟沙汰となったのだ。「基準以下の未成魚を獲らないという規制を“守る”ため、獲ってしまい死んだ未成魚を放流という名目で海上に投棄している」(水産業界関係者)ということもままあるという。
法改正の動き自体は評価できるが、運用が骨抜きになってしまっては意味がない。水産庁には、自ら変わる覚悟が必要だろう。
資源枯渇と構造問題で沈みかけた日本の漁業だが、適切な管理と戦略があれば、世界的には漁業は成長産業だ。日本の漁業は変われるのか。魚好きの全ての日本人が、注視すべき問題である。