筆者は、リスクのある株式などへの投資は、官でできるはずがないし、官と民間が協業する官民ファンドは原理的に成り立ちにくいという考えだ。

 そのことは、辞任の意向を表明した10日の田中社長の記者会見や、それを受けた世耕弘成経産相の記者会見からもわかる。

 会見では、経産省と機構との間での「信頼関係の棄損」や「事務的失態」、「政府内や経産省内の調整不足」が対立の原因かのような趣旨の発言があった。

 だが、両者のギャップは、技術的なコミュニケーションの問題というレベルではなく、「官」と「民」ではよって立つべきルールが違うことからくる、埋めがたい本質的な違いである。

官民ファンドの限界が露呈
リスク投資は難しい

 役員報酬について、田中社長は、経産省官房長から文書で示されたものを取締役会で決議したのに、その後、文書で示されたものが白紙撤回されたので、政府との間の信頼関係がなくなったという。この経緯について、日本は法治国家なのかと疑問視している。

 一方、世耕経産相は、官房長の出した文書で混乱させたことは謝罪したが、産業革新投資機構は商法に基づく株式会社であると同時に、産業競争力強化法の規制下にあるので、同機構の取締役会で決議したものを経産大臣が認可しないことはあり得るとした。

 この点では、世耕大臣の説明のほうがより正確だ。

 しかも経産省官房長から提示された文書について、田中社長に誤解があった。田中氏は官房長という幹部が提示した文書なので、政府内で調整済みの公文書だと勘違いしたようだ。

 その文書は、経産省のホームページに出ている。

 こうした法律や役所の調整のやり方に対する知識を民間人に求めるのは酷かもしれないが、産業革新投資機構という、国が出資した「官」の組織の社長である以上、そういったことも知っておく必要がある。

 逆にいえば、田中氏のような有能な民間人であっても、官側の発想や考え方を十分には理解し得ないところが官民ファンドの限界になるのだ。