閉塞状況にしびれを切らして、社内の特定の誰かのやり方をマネしようとしたり、メディアで目にした極端な事例をなぞったりしていると、いきなり「谷底」に落ちたり、意味のない「回り道」をすることになりかねません。
このモヤモヤ感の「森」から抜け出し、確実に「自分の道」に戻ることを最優先するなら、まず「大まかな方向づけ」が必要なのです。
そこで2016年12月、パーソル総合研究所のみなさんと一緒に、「ミドル・シニア社員の働き方・就業意識に関する大規模調査」というリサーチプロジェクトを立ち上げました。
一定規模以上の企業に勤めている4732人のミドル・シニア世代にアンケート調査を行い、そのデータを分析したのです。これはミドル・シニア世代のみを対象とした調査としては、過去最大規模のビッグリサーチです。
「社内の事情通」ほど、成長の壁にぶつかる
「これまで実例はたくさん見てきましたから、データなんて必要ありません!」
きっと、そんな人もいると思います。しかし、どうでしょう?
こんな具合に“見事な分析”を披露していた当の本人が、40代半ばに差し掛かったあたりで、同じような「壁」にぶつかるというケースは、決して珍しいことではありません。要するに、周囲の個別事例に学んでいるだけでは、「ミドル・シニアの憂鬱」は容易には回避・克服できないのです。
「働かない」「くすぶっている」「停滞感・モヤモヤ」といった言葉の前で思考停止するのではなく、この背景にある要因を科学的に検証し、一般的な処方箋を導き出すことには、やはり十分な意義がある――私たちは今回の分析結果を見て、改めてそう確信しています。
後悔しないために「できること」はまだある!
とはいえ、私たちは「会社に頼る時代は終わった! これからは自分の力で歩き出そう!」などといった勇ましいメッセージを掲げることはしません。いわゆる脱サラや起業も選択肢の1つとしては考えられますが、いまの職場で仕事を続けながらでも、変えられることはたくさんあります。
他方で、これは安易な「現状維持のススメ」でもありません。閉塞感を生み出している「根」を断たない限り、異動しようと、転職しようと、起業しようと、そして定年退職しようと、この停滞感は消えないからです。やはり、なんらかのアクションは必要なのです。
最後に、私たちは、「これらの仕事術を駆使して、“生産性”の高い人材になろう!」などとみなさんを駆り立てる意図もありません。生産性はあくまでも結果であって、目的ではないからです。
私たちが目指したのは、みなさんがいまの停滞感を払拭し、残りの会社生活を後悔のないものに変えるためのヒントです。また、これらの処方箋は、「定年後」にすら、前向きな効果を期待できることが、今回の分析データからは見えています。「ミドル・シニアの憂鬱」を脱却するための方法論は、まさに「一生もの」の資産になり得るのです。
そこで次回からは、これらの知見を一冊に凝縮した『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』のなかから、ミドル・シニアにとって有効だと言える具体的なアクションや考え方を、一部ご紹介していきたいと思います。
法政大学大学院 政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。「越境的学習」「キャリア開発」「人的資源管理」などが研究領域。人材育成学会理事、フリーランス協会アドバイザリーボード、早稲田大学大学総合研究センター招聘研究員、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長、一般社団法人ソーシャリスト21st理事、一般社団法人全国産業人能力開発団体連合会特別会員。主な著書に、『越境的学習のメカニズム』(福村出版)、『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、主な論文に"Role of Knowledge Brokers in Communities of Practice in Japan." Journal of Knowledge Management 20.6 (2016): 1302-1317などがある。