理由を端的に申し上げれば、現代日本におけるミドル・シニアの悩みには「構造的な要因」があるからです。裏を返せば、このつまずきには、本人の努力不足"以外"の理由があるということです。
とはいえ私は、“組織・企業”を変えるため、というよりはむしろ、“働く個人”に向けて今回の本を書きたいと思いました。あえて個人を対象とすることにしたのには、大きく2つの理由があります。
1つめは「個人的な思い」の問題です。
ここまで「ミドル・シニアの人は……」などと自分のことを棚上げにしてきましたが、何を隠そう、1964年生まれ(現時点で53歳)である私自身も、ど真ん中のミドル・シニア世代なのです。
しかも、私が正式に大学の教員になったのはわずか6年前ですから、「ミドル・シニアの憂鬱」は決して他人事などではなく、まさにわが身に迫る問題でもあります。
思えば、われわれの世代が社会人になったころは、まだ独身寮全盛の時代でした。寮の個室は2人部屋が普通で、エアコンもないので夏は暑くてなかなか寝つけません。スマホどころか電話機もありませんから、仕事で疲れて帰ってきても、友達に連絡するには外の公衆電話に並ぶことになります。深夜までの残業も多く、帰宅したころには寮のボイラーは切られていて、湯船の冷めた水で身体を洗うといったエピソードもよく耳にしました。
決して「武勇伝」をひけらかしたいわけではありませんが、こうした状況は、当時の新入社員には珍しいことではありませんでした。
われわれは、半ば侮蔑的なニュアンスも込めて「バブル入社組」などと呼ばれる世代ですが、それでも多くの人は、会社のために身を粉にして働いてきたのです。
にもかかわらず、中年に差し掛かったあたりで、上下の世代から「バブル層が会社でくすぶっている」などと揶揄され、複雑な思いを抱えてきました。「ずっとがんばってきたのに、会社にいきなりハシゴを外された!」という人も少なくないでしょう。
私自身は、周囲の人に恵まれた会社員生活を送ってきたという自覚がありますが、それでもやはり、たくさんの挫折も経験してきましたし、そのたびに、「もうこれ以上は、先が拓けないのではないか……」という思いを味わってきました。
ですから、急に成長が止まったような、なんとも言えないあの停滞感は、私もよく覚えがあります。もちろんこれからも、こうした停滞感とずっと無縁でいるわけにはいかないでしょう。つまり今回まとめた『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』は、未来の自分に向けた一冊でもあるのです。
会社が変わるのを待っていては「時間切れ」になる!
個人的な話で大変失礼しました。ミドル・シニア向けの仕事術が求められているもう1つの理由は、より実践的なものです。
すなわち、それは「日本型雇用は今後もそう簡単には消えない」と私が考えているからです。こちらは、元・人事担当者としての私の現場感覚です。