絶滅を防ぐことは、人間の「エゴ」なのか?

――ぬまがささんの本には、残された骨や毛皮からDNAを抽出して、もう一度絶滅した動物をつくり出す試みがされている、という話も紹介されていました。

ぬまがさ 最近『絶滅できない動物たち』(ダイヤモンド社)という本を読んだのですが、これが非常に面白かったんですよ。絶滅動物を保護したり蘇らせたりすることを絶対的な「善」と捉えがちですけど、本当にそうなのかな? という視点を示している。

丸山 生息環境がなくなってしまった動物を、復活させたり飼い殺しにしたりすることは果たして「保全」なのか? ってことですよね。そもそも、なぜ保護するべきなのかという根っこの部分には、色んな意見があって正解がないですし。

ぬまがさ そう、正解がない。少し話はズレるんですけど『寄生獣』(講談社)という、人間と、人間に寄生する寄生生物とが戦う漫画(岩明均作。映画化もされた)があって。その中に「(人間が)他の生き物を守るのは人間自身が寂しいからだ」という言葉が出てきます。漫画は、でもそれでいいんだ、という結論で終わるんですが、絶滅生物について考えると、それは人間のエゴかもしれない、と思う自分もいます。人間が寂しいからというだけの理由で蘇らせて、ちゃんとした生息環境もないのに生きながらえさせるのって傲慢な発想かもしれない……と、ちょっと揺れる部分も出てきたんですよね。

丸山 難しい問いですね。たとえば、ぬまがささんの『絶滅どうぶつ図鑑』にも紹介されていた、前半分がシマウマ、後ろ半分がウマのような毛色の絶滅生物「クアッガ」。これにそっくりな個体を、サバンナシマウマの交配を繰り返してつくり出すことに成功したという話があります。けれどそれは本当のクアッガではないし、見た目が近いものを作出する意味があるかというと、それは自己満足でしかない……。

ぬまがさ イヌからオオカミに似た犬種を作り出したようなもんですもんね。シベリアンハスキーを交配させて生まれたのがオオカミかって言ったら、それは当然違うわけで……。

丸山 もちろん人為絶滅は避けるべきですが、そもそも「何で絶滅させちゃいけないのか?」と問われると、みんななかなか答えが出せないんです。

ぬまがさ 根本的すぎて、詰まるんですよね。ある生物を保護することによって、被害を受ける生き物も出てくるわけですから。

「絶滅は悪か?」というテーマにどう向き合うか

――「なぜ絶滅させてはいけないのか?」という難しいテーマに、私たちはどう向き合っていけばいいのでしょうか?

丸山 たとえば、ある土地を開発したいとなったとき、希少生物がいるから守りましょうという声が出てきて、裁判をしたら開発側が負けて保全されることになった、というケースもたまにありますが、反対に、ほかにも生息地はあるので公共の利益を優先するという場合もあります。保護と利益というのはぶつかることも多いもので、より大勢の人の利益に絡むほうが通ってしまいがちです。大多数の人間にとって、1種の生き物が絶滅したところで影響はありませんからね。

ぬまがさ カブトガニは薬の材料にもなるから残しておいたほうが人間のためになる、なんてことを言う人もいますけど、本当にためになるかといったら、他にもやり方はいろいろあるでしょうからね。

丸山 そうそう、広大な干潟を守ってカブトガニを生き残らせるよりも、別のアプローチで薬を作ったほうが安上がりかもしれない。それにこの考えは、「人間の利益のために他の生物を確保する」というものですから、衷心から出たものではなく、生物に興味のない人を説得するためのこじつけですよね。

「絶滅」からは、多くを学べる

――とはいえ、「動物たちを守りたい」というのは、人間が持つ自然な気持ちでもあるように思います。

ぬまがさ 仮に人間に被害が及ぶことになったとしても、それでも守りたいよねというのが人間の特性というか、人間らしさではあると思います。

丸山 それも人間のエゴでしかないかもしれないですけどね。ただ、「生物のために」っていう視点で考えると、すべての種は関わり合って生きているので、一つの種が滅ぶと連鎖的にまわりの多くの種が滅んだりすることもある。だから、「地球のみなさんにあまり迷惑をかけるのは良くないので絶滅をさせないようにしましょう」という考え方には、ある程度妥当性はあると思います。

ぬまがさ それは多分にあり得ますね。たとえばある地域でハチが絶滅したとします。そんなハチが1種絶滅したぐらい影響ないだろうと思うかもしれませんが、実はそのハチだけがある特定の植物を受粉させている場合もある。そのためその植物も絶滅してしまい、さらにはその植物を食べていた動物も絶滅……と連鎖的に絶滅が広がっていく事態も起こりうるんですよね。

丸山 めちゃくちゃ固いカリヴァリアの木の実は、ドードーが砂肝でその実をすり潰して消化することで、糞から種子を発芽させていたそうです。そのため、ドードーが絶滅してからカリヴァリアの若木は激減して、今では絶滅の危機にあると言われていますね。

ぬまがさ 絶滅って基本的には気が滅入るような出来事なんですけど、生物が環境の中でどういう役割を果たしているのか考える良い題材でもありますよね。ある生物がいなくなったとき、どういうことが起こるのか……。絶滅は、一番分かりやすく結果が出ますから。ただ単に「人が滅ぼしたんだね、良くないね」で終わりがちですけど、生物の世界はものすごく繊細なバランスで成り立っている奥深い世界なんだ、ということを理解する入り口でもある。罪悪感を抱くだけじゃなくて、学びの良い教材にもなるものだと思います。

第3弾は12月29日(土)公開予定。お楽しみに!