ただし、日本的な組織の会議では、議論が活発になることは少なく、沈黙が生じがちである。そんな時に、いきなり疑問をぶつける意見が出たりすると、今度は賛成しにくい空気が作られてしまいかねない。

 そこで、もし慎重に検討したい議案があれば、賛成意見を述べる人と疑問をぶつける人を事前に決めて準備しておくといいだろう。賛成の役割の人は、その提案なりアイデアなりのメリットについて、疑問をぶつける役割の人は、そのデメリットやリスクについて、それぞれ考えておくのである。

 そして会議の場で、両者が議論の口火を切るのである。そうすることで、賛成の人も疑問を感じる人も率直に質問や意見を言いやすくなる。

上司の暴走を止めるには、
制度上の工夫が不可欠である

 部下が会議の場で上司と直接対決するのは非常に危険なやり方だ。覚悟を決めて思い切って疑問をぶつけた経験をして、自分の無力さを実感した人もいるはずだ。

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 大事なのは、上司の暴走を許す空気、つまり異論を出しにくい空気を壊すことだ。その空気さえ壊すことができれば、本当の議論ができる。暴走を食い止めるには、その上司を直接ターゲットにするのではなく、制度そのものの工夫をしていくほうが近道となる。

 そこでA課長は、信頼できるB部長の上役に相談し、組織の意思決定をするにあたってリスクを軽減させるために、上述のようなやり方を取り入れられないかどうかについての提案を会議に諮ってもらったのである。

 B部長のような暴走する上司に悩まされている場合、反発を感じている人も多いため、意思決定の誤りを防ぐリスク回避法には関心を示してくれる人が意外といるものだ。

 ただし、B部長のことを話題に出すのは禁物だ。なぜなら相手がB部長とつながっている可能性があるからだ。あくまでも組織としての意思決定に関するリスク回避法を取り入れてもらえないかと相談するのである。

 A課長の組織では、この手法をすべての会議で取り入れることになり、B部長の機嫌を過剰に意識することがなくなり、話し合いがしやすくなったという。

 急がば回れで、上司の暴走を止めるには制度上の工夫が有効であること、そのためにはさらなる上役に動いてもらうのが何よりも有効だということを肝に銘じてほしい。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。