メディアの「哲学」が読者を動かす

 これはささいなことだと思われがちで、実際にそうかもしれない。しかし、バズフィードが勝利を収めたのは、シェアを非常に重視しているからだ。

 読者層を理解するため、データ主導の分析的なアプローチによって、なにが読者を動かすか、活性化するかを突き止めたことが、バズフィードの成功の秘訣なのだ。

 従来型のメディアも気づいている。2013年、『ニューヨーク・タイムズ』において、年間でもっともユーザーを集めたコンテンツは、徹底的な調査記事ではなく、なんとクイズだった。25の質問に答えると、その人にもっとも近い話し方の地域が地図上で表示されるというものだ。

 では、読者に行動をうながすバズフィードの方針と、世界でもっとも歴史があり、評価も高い、イギリスの週刊紙『エコノミスト』の哲学をくらべてみよう。

 エコノミスト・グループのメディア事業部代表のポール・ロッシはこう語っている。

「我々は、読者の頭のなかに価値を創造したい」。それによって、彼らは多大な影響力を持つようになった。

 エコノミスト・グループが発信するコンテンツは、国家元首や大企業家たちが毎週しっかりと読んでいる。間違っても、「絶対に"なんだこりゃ!"と言ってしまう写真を選んでみた」といったコンテンツを載せることはない。

 とはいえ、『エコノミスト』のような大手メディアも、バズフィードを成功に導いたさまざまなスキルを習得することなしに、この先も安泰にやっていけるとは考えにくい。

 同紙の創刊は1843年、穀物法の廃止を訴える運動組織としてスタートした。以来、時代の大きな政治・文化問題に最前線で取り組んできた。

 たとえば1990年代半ばには、同性婚の支持を明確に表明した。これについては当時の編集者たちもおよび腰で、世間では「常識外れで過激だ」という声も上がったが、同性婚の合法化に道を開いた。

「事実」についてすら公の場で堂々と異議が示されるいまの時代に、そうした重要な役割を果たし続けるためには、『エコノミスト』のような大手メディアは、自社の理念に共感するコミュニティを巻き込むことを真剣に考える必要がある。

 人びとの行動をうながすアイデアを生み出すには、ただ「いいね!」をねらうだけでは足りない。コミュニティの行動をどうしたら自分たちのコミュニケーション構造に組み込めるかを、組織はしっかりと考える必要がある。そのために重要なのは哲学であり、テクノロジーではない。コミュニティの人びとは、ただ消費して従う以上のことをするためにいるということを、組織は肝に銘じるべきだ。

(本原稿は『NEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろ』からの抜粋です)