「誰を笑顔にしたいか」を基軸に、課題を更新し続ける

斎藤 私たちの事業は端的にいうと、ベンチャーがいて、その周りにはお金を出すVC(ベンチャーキャピタル)、大企業、政府がいます。「VCのファンドがもっと増えるようにしよう」「大企業とベンチャーをつなぐためにモーニングピッチをやろう」「政府に政策提案して、もっとこの分野への関心を高めよう」…そうやって事業を考えていくんです。その時に考えるのが、「誰を笑顔にしたいか」ということです。
 この問いは、「ブルー・オーシャン戦略」ともつながると思うんです。「この人をどう幸せにするか」から発想すると、どんどんアイデアが生まれます。けれども、「どこが稼げるか」からスタートすると、レッド・オーシャンになるんだと思います。

ムーギー 稼げる市場には、みんなが同じような発想で進出しちゃいますからね。これに対し、本質的に顧客の痛みを取り除くバリューを考えるのは、ブルー・オーシャン戦略の基本的な要素の一つでもあります。

斎藤 はい。発想の起点に“喜ばせたい人”がある。しかも、そこに思いがあれば、課題を解決するサービスはどんどん浮かぶんですよね。そして、今課題だと認識しているということは、まだブルー・オーシャンだということと、イコールだと思うんです。

ムーギー 未解決の問題ということは、誰もそれを解決するサービスや製品を十分なレベルで提供していないということですもんね。

斎藤 私たちの事業も、最初はベンチャーへの資金調達に関する助言や大企業とベンチャーをつなぐ支援を中心に行っていたんです。

ムーギー ただ、他にも同じようなことをやっている人がいますよね?

斎藤 そうです。どんどん、課題は解決されていきます。だから、解決されると、次の課題解決に動くんです。
 私たちの場合、今は日本のベンチャーを世界で活躍させることが、次の課題です。ここはまだ、ブルー・オーシャンだと思っています。

ムーギー なるほど。今、日本のベンチャーが大企業とつながり、資金調達をするエコシステムが構築されていて、ある程度市場が出来てしまったという認識なんですね。だから次は日本のベンチャーがグローバルで活躍するための橋渡しをするぞと。ベンチャーが経験するトータル顧客体験として、資金調達のところでひたすら競っても仕方なくて、その後のグローバル進出などもサポートしていくのだと。

斎藤 課題が解決されつつあるというのは、レッド・オーシャン化しているということです。だから、新しい課題を見つけて、ブルー・オーシャンに移らないといけない。

ムーギー 実は、ブルー・オーシャン戦略への最も大きな誤解は、「ブルー・オーシャンは一度切り開けばよい」というものです。「かつてブルー・オーシャンを切り開いていたかもしれないが、今はレッド・オーシャンになっているじゃないか」と、勘違いされる方もいます。
 『ブルー・オーシャン戦略』の著者のチャン・キム教授もおっしゃっているのですが、一度切り開いたブルー・オーシャンが永遠に続くわけではないんです。刷新し続けなければいけません。
 斎藤さんがおっしゃるように、課題が解決されると市場を変えるのは、まさに「ブルー・オーシャンを刷新し続けよ」という、チャン・キム教授のメッセージと重なりますね。
 課題が解決されると、次の課題を探して事業化していくというのは、イノベーションを起こす企業にとって不可欠な、基本的態度であるように思います。(対談後編へ続く