しかし結果は逆でした。ソ連のゴルバチョフ政権が進めた自由化の波が東欧諸国に及んだ1989年、中国共産党政権は言論の自由を求めて天安門に集まった学生・市民を武力弾圧しました(天安門事件)。江沢民政権以降、ナショナリズムを鼓舞する愛国心教育が徹底され、胡錦濤政権下では尖閣諸島での領海・領空侵犯が常態化されました。

 そして今、「中国の夢」を掲げる習近平政権は、旧ソ連製の空母「遼寧」を就役させ、国産空母の建造を急ピッチで進めています。南シナ海では、ベトナム・フィリピン等との係争地であるサンゴ礁の島々にコンクリートを流し込み、要塞化を進めているのです。

 経済の自由化が中国を民主化させ、緊張を緩和するという西側諸国の楽観論は間違いでした。この楽観論は、「人間は進歩するものであり、平和と民主主義が世界に広まっていく」という予定調和的な進歩史観、一種のイデオロギーに由来します。この思想は、ユダヤ教・キリスト教の終末論思想に影響されたものですが、ここでは深入りしません。

地政学では国家を
一種の「生命体」と考える

 近年の中国の膨張政策を説明するには、イデオロギー的な進歩史観に代わる、もっと現実主義的なアプローチが必要です。それが地政学(地理学×政治学)です。

 地政学では、国家を一種の生命体と考えます(国家有機体説)。国家とは人間の集合体であり、人間は生物だからです。

 それでは生命の存在意義とは何か?「生きること」「生き残ること」、ただそれだけです。エサを求めて活動し、別の個体とは競争する。これが生物です。地政学では、その国が掲げる理念や理想、イデオロギーを度外視します。「なんとか主義」はどうでもよいのです。各国は「生き残り」をかけて争っているだけで、この争いは人間が存在する限り未来永劫に続くのであって、終着点はありません。

 国家同士が対立するのは、隣接している場合です。日本はロシア・韓国・中国と領土をめぐって対立していますが、アルゼンチンとの間に紛争はありません。イギリスは1980年代にアルゼンチンと戦って勝ちましたが、これはアルゼンチン沖のマルビナス諸島(フォークランド諸島)をイギリスが領有してきたからです(フォークランド紛争;別名マルビナス戦争)。