ビジネスの便益がないアイディアの危険

足立 アイディアも結局、戦略的に正しくて、ちゃんと実行できないと結果は出せない。でも、やってみてうまくいけば、それをブーストして広げていけばいい。マクドナルドも、話題化をやってみよう、と取り組んで、成功したらもっとやってみよう、と広げた。成功したものを、戦略と称してやっていけばうまくいくパターンです。

西口 僕は自分なりの定義があって、アイディアは既視感がないものと便益の組み合わせが成立したときに、独自性、オンリーワンのものになる。ところが、ただ独自性、オンリーワンのものを出そうとする人がいるんですね。

 例えば、広告クリエイティブで広告が面白いものがある。でも、それは必ずしもアイディアではないわけです。広告のアイディアであって、ビジネスそのものの便益がないケースがあるから。ビジネスの便益がなければ、単なる面白い話です。だから、広告の半分以上は全然ダメだと思うんです。広告のアイディアになっているだけ。売り上げにつながっていない。アイディア自身、広告自身が面白くてもダメなんです。

ロジックだけの戦略は上手くいかない。西口 一希(にしぐち・かずき)
1990年大阪大学経済学部卒業後、P&G マーケティング本部に入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクター。 2006年ロート製薬に入社、執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デオウ」「ロート目薬」等の60以上のブランドを統括。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。 アジア人初のグローバル エグゼクティブ コミッティ メンバーを経て、ロクシタン外部取締役 戦略顧問。2019年現在、スマートニュース 執行役員 マーケティング担当(Senior Vice President of Marketing Japan and USA)およびマーケティング コンサルティング会社 Strategy Partners代表。

足立 マクドナルドでも、おいしさと来店に結びつかないとダメだ、ということはずっと言っていました。実は最初、失敗しているんです。「名前募集バーガー」は話題になりましたが、お店に来なくていいんです。ネットでバズっても、来店につながらないと意味がない。

 話題化はバズることでもあるわけですが、本当にそれがその商品の便益、商品自体の売りに結びついているか、ということは厳しく問いました。逆にアイディアも、こういうのが良いアイディアだ、ウケるんだ、ということがわかれば、みんな出してくる。エージェンシーさんを含めて。

発注者の仕事は「選択肢を定めること」

足立 これは本にも書きましたが、マクドナルドって人数が少ないんです。だから、エージェンシーさんの力を借りるしかない。この人たちがやる気になって、この人たちのモチベーションを上げないといけない。

 組織というと、みんな自分の会社組織のことを言い出すんですけど、そうではまったくなくて、そのプロジェクトの成果を出すために必要な人たちがいるわけです。その人たちも含めて、しっかり情報をシェアしていかないと。

西口 広告を作ってもらったり、アイディアを出してもらうとき、発注者側が「アイディアとはなんぞや」ということをつかんでいれば、クリエイティブの人たちはいい仕事ができるはずなんです。それをつかんでいなくて、「何か面白いことないの?」みたいなことを言うから、おかしなものが上がってくる。バズったけど、売り上げにつながらなかった、なんてことになる。便益と独自性をちゃんと理解して発注しないと。

足立 その意味では、便益が考えられていないアイディアは、スパッと切りましたね。0点をつけて。エージェンシーさんにも、担当者さんにもわかってもらうために。これはダメ、と言わないとわからない。おいしさに落ちてないですよね、これではダメ、と。

西口 僕も広告を作ってもらうとき、便益に刺さっていないときは、思い切り言います。ディレクターって、すごく戦略的な仕事のはずなんですが、それをわからずに、単なる発注だと思っている人も少なくない。

 ちゃんと指示を出して、こういうこと、と言わないから、エージェンシーさんも何を出していいかわからなくなって大変なことになる。「とにかく面白いものを持ってこい」と言われても、面白いの定義がなければ、作りようがない。

足立 クライアント側の仕事は、選択肢を定めること。そうすることによって、エージェンシー側はフォーカスできて、いい仕事ができる。「ちょっと持ってきてよ」なんていうのは、特権でもなんでもなくて、逆効果です。

西口 発注する側が、自分たちは何がほしいか、自分でもわかっていないと、そういうことが起こる。まずは、定義をすることですね。それが発注側の最大の仕事だと思います。(了)

ロジックだけの戦略は上手くいかない。スマートニュース オフィスにて