いまから29年前のこと――武蔵野社長・小山昇は毎晩悩んでいた。
まわりは暴走族上がりの落ちこぼれ社員ばかり。「勉強しろ」「すぐやれ」と言えば真逆のことをする。にっちもさっちもいかない日々が続き、勤務形態も超ブラック。社長の心も社員の心もすさんでいた。1989年社長就任時の売上は7億円。「このままいくと武蔵野は危ない」と誰もが思っていた。
しかし、2000年度、2010年度に日本で初めて「日本経営品質賞」を2度受賞したとき、運命は一変した。経営サポート事業が軌道に乗り、指導企業は700社を超え、倒産企業はゼロ、5社に1社は過去最高益に。昨年、JR新宿ミライナタワーにセミナールームをオープン。直近売上は70億円、経常利益は6億3000万円、売上高経常利益率は9.0％（販促費として8億4900万円を計上しているので、実質売上高経常利益率は21.0％）。この規模でこの数字は異常かもしれない。
売上7億円を70歳で70億円にした小山昇が、創業以来大切にするのが「数字は人格、お金は愛」という経営哲学だ。これは一体どういうことか？
話題沸騰の書籍『お金は愛――人を育てるお金、ダメにするお金』に際し、担当編集が小山昇を直撃した。すると……
「みんな【お金は愛】という意味を勘違いしている。決して金の亡者になることではない。その真逆のことを書いた。いまこそ、“生き金”と“死に金”のほんとうの意味を知っておかないと、社長も社員も大変なことになる。この本では経営や仕事だけでなく、プライベートのお金の話にも深く踏み込んだ。「死に金」を「生き金」に変えた30社超の事例も載せた。これまで一切触れてこなかった“お金と子育て”“お金と夫婦”“お金と遊び”など、正直、ここまで書いていいのか迷ったが、すべて出し尽くした。私も70歳を迎え、家族が食べる分は十分稼がせていただいた。ぜひ若い人たちに“生き金”と“死に金”の分水嶺を知ってもらい、人を育てるお金、ダメにするお金の本質を知ってほしい」という。もしかしたら小山昇は真の意味で「愛の人」なのかもしれない。
なぜいま、「お金は愛」なのか。その真意を小山社長に語っていただこう。（構成：寺田庸二）。
モノの収集に
喜びを感じる人を採用するな
小山 昇（こやま・のぼる）株式会社武蔵野代表取締役社長
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒。「大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団」を16年連続増収の優良企業に育てる。現在「数字は人格、お金は愛」をモットーに、700社以上の会員企業を指導。5社に1社が過去最高益、倒産企業ゼロとなっているほか年240回以上の講演・セミナーを開催。日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞（2000年度、2010年度）。
『数字は人格』『朝30分の掃除から儲かる会社に変わる』『強い会社の教科書』『【決定版】朝一番の掃除で、あなたの会社が儲かる！』『残業ゼロがすべてを解決する』『1日36万円のかばん持ち』などベストセラー多数。
遊びにお金を使うのはいいですが、
その方向性が「モノを集めること」に向かうのは感心しません。
お金で買った「経験」は一生の財産になりますが、
「モノ」は売ったり壊したりすればゼロになる。
形があって目に見えるから価値があるように感じますが、
本当は目に見えないもののほうがずっと価値は高い。
わが社の五十嵐善久部長は大の車好きで、家に車を2台、バイクを3台持っていた。
給料のほとんどを車につぎ込むから、経験が増えないし、部下と飲みにいくお金もない。
だから同期が次々と出世していく中で、五十嵐だけが長らく課長止まりだった。
改心して車を手放しましたが、部長になったのはごく最近です。
このような実例がいたので、
趣味がモノのコレクションという学生は採用の段階で弾（はじ）いています。
採用面接では、
「雨と霧と雲の違いは？」
といった類（たぐい）の質問をぶつけます。
これはほぼ全員が答えられない。
答えられない質問を入れるのは、
不合格者が何の質問でふるいにかけられたのかをわからなくするためです。
超難問をひとつ入れておけば、
不合格者は「あの質問に答えられなかったから不合格だったのか」と思います。
最近は、就活生同士がつながって情報交換する時代になりました。
しかし、こうやって煙幕（えんまく）を張れば、
カンニングに近い面接対策を防ぐことができます
（ここでモノ収集はダメだと明かしてしまいましたが、
それは本書を読んだ学生へのオマケにしておきましょう）。
じつは、先ほどの超難問、過去にひとりだけ正解した学生がいました。
しかし、不採用です。
煙幕を張るための質問で正解するかどうかは重要でないし、
この難問にスラスラと答えられる鋭い感性を持つ人にとって、武蔵野の器は小さすぎる。
別の会社で活躍してもらったほうが本人も幸せです。
