一方、部下の提案に関心を示し、改善行為を評価してくれる上司だったらどうだろうか。
当然、部下は評価してくれたことを喜び、いっそう意欲的に働くことになるだろう。ただし、これだけの対応で終わってしまっては、嬉しさもやる気も長くは続かない。
仕事ぶりによって、いつかは賞与や給料が増えるだろうという期待は持てるかもしれないが、報われる確証がなければ、カイゼンの意欲は自ずと後退していく。
信頼関係というのは、言葉で約束し合うだけでできるものではない。「私を信頼してほしい」とか「君を信頼しているよ」という言葉をいくら重ねても、それを裏付ける具体的なものが何もなければ、相互の信頼を築くことはできない。
信頼の裏付けは
ずばり「お金」
では、会社がトヨタの社員一人ひとりに示す信頼の裏付けとは何だろうか。
意外かもしれないが、結構大きな裏付けとなっているのは、お金である。それも、その支払い方に秘密がある。
少し乱暴な言い方をすれば、人はお金のために働いている。そして、お金が多ければ多いほど嬉しく思うし、モチベーションも上がる。これは万人に共通する真実であろう。
いくら聞き心地のよい理屈をこねても、やっている仕事や努力がお金につながらなかったら、それは続かない。ボランティアで働くことがあるとしても、一時のことであり、ずっとボランティアだけを続けながら生きていくことは、普通はできない。
社員が会社に対して持つ信頼感、すなわち「会社はわれわれのことをちゃんと考えてくれている」と誰もが感じるのは、自分の努力に対して金銭的な対応を受け取ったときである。
カイゼンの哲学(トヨタウェイ)が自身の頭と身体に染み込んでいく最初のきっかけは、みんなこれなのだ。
シンプルな例を挙げて具体的に書こう。
カイゼンを支える制度の一つとして、トヨタには「創意工夫提案制度」というものがある。提案制度は高度成長期の頃から多くの会社が取り入れ、一定の成果を上げてきた。カイゼンを哲学とするトヨタも当然のこととして行ってきた。
トヨタの提案制度は、その運用方法において少しばかり独特である。