どこが独特かというと、どんな些細なことでも書いて出せば報酬があることだ。私が法務部にいた1970年代の頃は、提案を出すだけで1件につき500円もらえた。

 今は倍の1000円くらいになっているのだろうと予測し、会社に確認してみたら、なんと500円のままだった。

 ちょっとびっくりしたが、よく考えたらトヨタらしい一面だと思った。提案に対して報酬を出すのは、提案することの喜び(採用する喜びではない)を大切にしているからであり、金銭の多寡は出すほうも、受けるほうもあまり重視はしていないのである。

 むろん、効果の大きい提案、たとえば何百万円もの原価低減につながるような提案であれば、10万円の報酬ということもある。また、提案件数を重ねれば、年間で表彰もされる。

 提案する内容に制限はないが、一つ条件があるとしたら、提案者が実際にやってみて何らかの効果が出ていることである。

 たとえば「棚の部品の置き場所をここに移してみました」(改善提案)、「すると能率が上がりました」(効果)という具合だ。効果は感覚的なものでいい。数値的な検証などは重視されない。とにかく本人の実証付きカイゼン提案であれば報酬をもらえるのだ。

 そして、ここが最も独特なのだが、しばらく続けてみて、元に戻したほうが能率が上がるような場合、報酬をもらった提案アイデアをひっくり返す改善も、新たな提案として提出できる。そして、それについてもご褒美をもらえるのだ。

 要は、社員が自分の仕事に潜む問題を見つけ、自らの頭で考え、試してみる行為を会社として奨励し、考えた結果についてはきちんと評価するという仕組みである。

 ご褒美は、会社が評価していることの裏付けである。500円だろうが1000円だろうが、きちんと評価していることを具体的に示すことが大事なのだ。そうすることで、「自分の頭で考えながら、しっかり仕事をすれば会社は評価してくれるんだ」という確信が得られる。

 この繰り返しによって、会社への信頼感が徐々に醸成されていくのである。