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iPhone 5G対応は2019年との観測もある William Hook

 2019年のモバイル業界のトレンドは、やはり5Gに向けたレースの中盤戦というあたりになりそうです。おそらくサムスンやLGなどの韓国メーカー、そしてファーウェイやシャオミなどの中国メーカーは、こぞって5G対応モデムを搭載した新モデルを投入してくることになるでしょう。

 5Gは現在の4G LTEの10倍以上の速度を目指す規格です。しかしこの「4Gの10倍」という部分については、一度議論しておくべきかもしれません。

 日本における4G LTEの最高速度は1Gbps弱です。これは4Gの理論値の最高速度にあたります。これに対して5Gの理論上の最高速度は20Gbpsとなっており、5Gは4Gの最大20倍の速度を狙うことになります。

 ただし米国では100Mbpsの4G LTEで頭打ちのような状況が実際のところで、日本の都市部のようにこの壁をホイホイ打ち破るようなことはありません。そのため1Gbpsの5Gであったとしても、米国にとっては10倍になります。理論値をイメージしていると意外と期待に届かないこともあるかもしれませんね。

 速度に加えて遅延の少なさは劇的な進化になると考えられています。ライブ放送やVRのようなコンテンツでは、遅延の少なさが体験に大きく影響することになります。スタジアムや劇場など、目の前のイベントとデジタルコンテンツを組み合わせるような体験で、5Gの低遅延は重要になっていくでしょう。

●クアルコムとの係争が5Gの問題に

 アップルもなんらかのタイミングでiPhoneを5Gに対応させるはずで、そのことにあまり疑いを挟む余地はないでしょう。しかし実現に向けては大きな障害があります。クアルコムとの係争です。

 アップルはiPhoneにクアルコムの通信チップを採用してきましたが、ロイヤリティの価格がデバイス全体に対してかけられている点を不服として是正を求めてきました。簡単に言えば「iPhoneの高付加価値化はアップルの成果だが、機能の一部であるはずの通信チップのロイヤリティを、iPhoneの総額に照らして設定しているのはおかしい」というのです。

 係争はいまだ解決しておらず、現在も裁判が続いています。裁判の過程で、アップルがiPhoneの通信部分について困難な状況に陥ったことが議会での証言で明らかになりました。アップルの役員の証言では、クアルコムを提訴したときから、iPhoneの通信周りの設計に関してクアルコムのアドバイスは得られず、チップの供給も止まり、難しい局面にあると語ったのです。

 ロイヤリティの金額が折り合わない相手に技術やアドバイスを提供しないというのはたしかに起きうる事態ではありました。しかし機能の一部とはいえ高速通信ができることはiPhoneの重要な構成要素の1つであり、設計に困難が生じてしまった点はアップルにとって非常に痛手といえるでしょう。

 アップルがクアルコムを提訴したのは2017年1月。同年発売されたiPhoneの半分はクアルコムではなくインテルのチップが採用されていました。2018年モデルになるとすべてがインテル製のチップとなり、クアルコムチップはiPhoneには採用されなくなりました。

 係争中の相手の製品を使わないのはさほど不自然ではなく、アップルがそうした判断をしたのかと思っていましたが、実際はクアルコム側から止められて、インテル製だけを使わざるをえない状況に陥っていたことがわかりました。

●アジア製モデムを使うか、自社開発か

 同じ裁判の証言では、アップルがクアルコムの代わりに韓国サムスンや台湾メディアテックの通信チップの採用を検討していたことも明らかになりました。

 これらの企業は5Gの研究開発でもトップを走っており、アップルは5G対応でインテルの力不足を見てとり、技術的な優位性を持つクアルコム以外のサプライヤー選定に動いたことが明らかです。このことから、当初2020年と見られていたiPhoneの5G対応が2019年に前倒しされるのではという観測が流れたのです。

 しかし、分かってきていることはそれだけではありません。アップルが独自の通信チップをiPhoneに搭載する可能性です。

 アップルはチップ設計会社P.A. Semiを買収し、iPhoneやiPadの心臓部となるAシリーズチップを設計しました。開発コストや基板の上での面積などを自由に設定できるため、他のメーカーのスマートフォンよりも完成品の処理性能や電池のパフォーマンスを高めることに成功しました。

 チップ開発技術を背景として、AirPodsは2年のアドバンテージを持って完全ワイヤレスイヤホンとして市場に投入されました。独自のチップ設計は、製品の特徴や魅力、競争優位性を大きく作り出すことができる点を、アップルはすでに体得しているのです。

 5G対応でも同様のメリットを享受すべく、モデム自体をアップルが自分で作りはじめる可能性は捨てきれません。実際、クアルコム役員レベルを引き抜いたり、クアルコム本社のある米国カリフォルニア州サンディエゴで技術者採用を進めるなど、人材面での揺さぶりも強まってきました。

●WWDC 2019でも5Gは注目の的

 そもそもみなさんは5Gで実現したいこと、体験してみたいことはありますか?

 個人的にはスポーツのVR中継や、スタジアムで観戦している際のAR的なオーバーレイは面白そうだと思っています。現場の臨場感とテレビのような快適な解説を両立させるイメージは、個人的にはぜひ体験してみたい5G時代のスポーツです。

 アップルはARをiPhone・iPadのプラットホームに持ち込み、アプリ開発者向けに開発環境を用意しています。その一方でVRの編集を打ち出したのは2017年と、大きく出遅れました。またiPhoneアプリの中でVRについてアップルがライブラリを提供するといったこともありません。

 iPhoneそのものだけでなく、開発環境の面でも5Gのコンテンツに対応できうるものを急速に準備していくことが予測されます。その点で、2019年の開発者会議もまた、かなり楽しいものになることが予測できます。


matsu

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura