どれも古典的で、昔から研究が行われているが、いまだ人間による試験でがんを治すという確固たるデータは得られていない。そんな治療を自由診療で提供しているわけだが、驚くべきはその価格だ。
どの医療機関もホームページで金額を明らかにしていないが、本誌の取材によれば、治療費は1回数十万円。それを何度も繰り返すので、続ければ合計で数百万円だ。
患者にとって、治療は自分に効くか効かないかの二元論。人に効かなくても、自分に効けばよい。統計に基づく科学的根拠というのは、実は患者にとってそれほど重要ではないのかもしれない。
しかし、自由診療で行われている免疫療法は、その効果だけでなく、起こり得る副作用のリスクもまた、明らかになっていない。
自由診療クリニックの多くは、「免疫療法は体に優しい」とうたうが、オプジーボはその効果と比例して、強烈な副作用がある。
だから、副作用に対応できる限られた医療機関でのみ処方が許されている。しかも、他の治療法と併用したときの安全性もまだ証明されておらず、現状国からは単独での使用しか認められていない。
16年、オプジーボによる治療中だった患者が、他の自由診療クリニックで免疫療法を併用したところ、心不全で死亡。患者が免疫療法を受ける際、オプジーボの投与を申告していたかは定かではないが、実は問題はそれだけではない。
同時期に日本臨床腫瘍学会が発表した患者向けの注意喚起には、「オプジーボを処方できる要件を満たさない医療機関が、国内の製薬会社を通さずに個人輸入で使用し、規定とは異なる用量で、かつ適応症以外の疾患に投与する事例が散見される」とある。
前出の死亡例は意図せず併用となってしまったのかもしれないが、他では無許可でオプジーボを処方した上、自院の免疫療法を故意に併用しているケースも決して少なくないとみられる。
冒頭の患者のように、適応外でもオプジーボを使いたいという患者は後を絶たない。その需要に鼻を利かせた医療機関は自由診療で投与を施す。前述の死亡例は、氷山の一角だろう。
そして思わぬ副作用が出た途端、患者を放り出すのが常だ。こうして、冒頭のような悲劇が引き起こされてしまうのである。中には、重症筋無力症という後遺症が残って、人工呼吸器なしでは生活できなくなった患者もいる。
「厚生労働省は、いつまでこんなやからを野放しにしておくのか」という憤りの声も聞こえてくるが、残念ながら、現在の薬機法では、自由診療は法の網の外。患者自身が自衛するしかない。
がん免疫の専門医は「このようなクリニックを放置すれば、免疫療法への世間の風当たりはますます激しくなり、まともな免疫療法の研究までつぶされかねない」と危機感を募らせる。
ところで、なぜこれらのクリニックが華々しい経歴を持つ医師をスタッフにできるのか。
「どこで知ったのか、個人のアドレスに自由診療クリニックからヘッドハンティングのメールが頻繁に送られてくる」(日本有数のがん専門病院の医師)
彼らの提示年収は、最低5000万円。今の年収の数倍だ。「自分の周囲も同様」とこの医師が明かすように、要はがん治療で知られる医療機関の医師を、巨額のギャラで次々と引き抜いているのだ。
それだけの資金力があるということは、やはり自由診療の免疫療法は“金のなる木”なのだろう。
悪いのは免疫療法ではなく、悪用する人間だ。悪質な医療機関の常套句を下図にまとめた。