命がある限り重視されるのは、
患者のQOLである

「過剰な延命治療をするから、不要な痛みとつらさを患者さんに味あわさせている」「終末期以降は自然の流れに身を任せながら緩和ケアをしっかり行えば、人間、それほど痛がったり、苦しんだりせずにあの世に逝けるはず」――。

 尼崎市で訪問診療を続け、約1000人をみとってきた長尾和弘医師が、その著書『痛くない死に方』で記している。

 1990年に緩和ケア病棟入院料が診療報酬に新設された。緩和ケア病棟は病院の役割として広がり、2018年11月15日には415施設、8423床にまで増えた。緩和ケアが医療の一環として浸透し、病棟の枠内に固定された。

 本来、緩和ケアはその場所を問わないはずだ。欧米諸国のホスピスでは、医療スタッフが患者の自宅に訪問したり、患者が病院に通院したりすることが多い。コミュニティー、すなわち地域医療というアプローチが重視されるからだ。

 また、日本では診療報酬ががんとエイズに限定されているが、海外では多くの他の疾患にも緩和ケアが適用されている。「安らかな死」「幸せな死」への希求は国を問わないはず。

 埼玉県新座市で在宅医療を手掛ける小堀鴎一郎医師は、「日本は『生かす医療』はトップクラスであるが、『死なせる医療』は大きく立ち遅れている」とその著書『死を生きた人々』で記す。

 全死亡者の90%は65歳以上である。がん患者313万人のうち65歳以上の高齢者は約70%を占める。がんは、認知症と同様に老人特有の障害とみても過言ではないだろう。つまり、老衰とともに現れる症状といえるのではないだろうか。

 細胞の機能劣化が最終段階を迎える時に、さらなる延命処置は自然の摂理に反すること。人間を含め命は必ず幕を下ろす。命がある限り重視されるのはQOL。日常生活ではあり終えない痛みを除去すること、すなわち緩和ケアが最優先されるべきだろう。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)