今日までの経緯をおさらいすると、次のような流れになる。事業を向こう20年間継続するには、(1)JSMCが所有する合弁事業の株式を約164億円でSABICに売却し、日本勢の出資比率を50%から25%に引き下げる、(2)加えて、出資比率75%となったSABICに対して、JSMCは約1470億円の合弁事業延長対価を支払う、(3)さらにメタノールの生産工程で、省エネルギー効果を高める新技術の商業化に向けた協業や、それらに付随する設備の更新などの条件が新たに突き付けられた格好だ。

サウジが抱く危機感

 これらが意味するところは、「今後20年間、出資比率を25%に下げた上で莫大な追加投資をしながら事業を続けるか、残り25%の株式も売却してサウジから撤退するかの二者択一」(関係者)なのだ。

 背景には、サウジの“新世代”に属すムハンマド皇太子が、2016年春から推進する「ビジョン2030」がある。石油・天然ガスの価値があるうちに、埋蔵資源を現金化して投資立国を目指す。

 その流れで、サウジ・アラムコ(国営石油会社)がSABICの持ち株を75%取得することが既定路線となった。また、アラムコの株式(5%)を新規公開させ、世界最大規模の政府系ファンドを中核とする国家改造に乗り出した。

 もっとも、株式公開による国家資産の切り売りは、“旧世代”に属す父親のサルマン国王に完全否定される。皇太子は、上場の延期でファンドの運用資金が減るため、SABICの株式をアラムコに売却することにより、約7.6兆円のSABIC株の買収資金の回収を急いだという説が有力なのだ。

 近年では、石油と、石油化学を統合運用する動きが加速している。三菱ガス化学は、こうした大きな流れの中で、“とばっちり”を受けた可能性が高い。

 最近でも、ムハンマド皇太子は、約46兆円の大規模なインフラ整備計画をぶち上げるなど、改革の手綱を緩めない。この3月末までに、三菱ガス化学は、年平均で約120億円の安定収益があった協業に終止符を打つか、最終決断を下すことになる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)