「他人モード」にハイジャックされた脳

毎朝だいたい決まった時間に会社に出かけ、GoogleCalenderや手帳で次の予定をチェックしながら、会議やアポイントメントに臨む。それ以外の時間で、頼まれた書類を作成したり、経費精算の処理を済ませたりする。合間には、TwitterやInstagramを投稿したり、「いいね!」をチェックしたりする。そこで出てきた話題を友人と話す――。

これらはいずれも、人から受け取った情報に反応する「他人モード」の行動だ。

ふつうに生きていると、僕たちの脳はずっと「他人モード」になっており、「自分がどう感じるか」よりも、「どうすれば他人が満足するか」ばかりを考えている。

膨大な業務に忙殺されている人、部下のマネジメント責任がある人、顧客の対応に追われる人、家事・育児・介護を抱える人……大きなネットワークのなかで生きる僕らの日々は、「他人モード」で占められている。何気ないソーシャルメディアの投稿をするときですら、「どうすればフォロワーたちを喜ばせ、『いいね!』を押してもらえるか」をつい考えている。

逆に、日常のなかで、「自分モード」と呼べる時間は、かなり少ないのではないかと思う。

「自分モード」のスイッチを切ったまま日々を過ごしていると、僕たちは「何がしたいのか」を思い出せなくなる。「君はどう思う?」と意見を求められても、そもそも「自分がどう思うのか」すら、よくわからなくなる。

そういう人からは何か新しいことを発想したり、粘り強く考えたりする力が失われる。
それだけならまだいいが、何かにワクワクしたり感動したり幸せを感じたりする力も、だんだん鈍っていく。

こうなると、なかなか厄介だ。

「他人モード」に由来する停滞感は、ネット時代に生きる僕たちの「生活習慣病」と言ってもいいだろう。このモヤモヤ感に心当たりがある人は、決して少なくないはずだ。

人も組織も「これがやりたい!」があると強い

じつは、ビジネスや企業経営でも、同じことが起きている。

安定して業績をあげている企業でも、売上・利益、株主、マーケット、競合他社など、「外部」ばかりを見ているうちに、「自分たちの原点」=「そもそも何がしたかったのか」を見失ってしまうのだ。すると、その組織からは不思議とエネルギーが失われ、それが数年後には経営状況にも響いてくるようになる。

逆に、圧倒的な結果を出し続けている会社やチームの陰には、「これがやりたい!」という強い想いを持った人たちがいる。彼らを動かしているのは、「論理的に導き出された戦略」や「データ分析に基づいたマーケティング」などではない。

むしろ、その原動力になっているのは、根拠があるとは言えない「直感」、得体の知れない「妄想」……要するに、いわゆる「ビジョン」の素になっているものなのだ。

僕が以前にいたソニーでも、うまくいく新規プロジェクトには、ある種の「直感」からスタートしている「ビジョナリー」な個人の存在がいつもあった。周りからは「妄想」と言われても仕方のないような斬新なアイデアに向かって、夢中でもがいている人たちの姿を目にしながら、僕はずっと「そんな人・組織の力になりたい!」という思いを持っていた。

そこで僕が立ち上げたのが、戦略デザインファーム「BIOTOPE」だ。「戦略」×「デザイン」は、一見矛盾した組み合わせに思われるかもしれないが、「戦略」=「理想とする状態を定義し、現状とのギャップを埋めるための道筋を見つけること」、「デザイン」=「いまだ存在しない概念(道)を具体化していく手法」とするなら、両者の組み合わせは意外と相性がいい。

個人・組織が持つ「妄想」を掘り起こし、それを「ビジョン」に落とし込み、その「具現化」までをお手伝いするのが僕たちの仕事だ。創業わずか3年の若い会社だが、各業界の優秀な「妄想家」の方たちとともに、すでに100件以上のイノベーション支援に関わらせていただいている。

『妄想』を駆動力にできる人・組織は、やはり強い――

時代感覚にすぐれた人たちは、その事実にもう気づきはじめている。

創業300年の老舗企業・山本山、文具メーカーのぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会をはじめ、名だたる企業・団体のみなさんが、僕たちのところに相談に来てくれている。

これ以外にも、メーカー系企業をはじめとして、マスコミや商社、IT、宇宙、スポーツ、エンターテイメント、バイオなど、クライアント先の業界も、じつにバラエティ豊かだ。