単なる「空想家」で終わる人と、現実世界にもインパクトを与える「ビジョナリーな人」、その両者を隔てているのが、「直感と論理をつなぐ思考法」があるかどうかだ。
いくら内発的な「妄想」からスタートしても、思考を「単なる妄想」のままに留め置いていては、それは「無」に等しい。
自分の妄想を解き放ったあとには、それを具体的な「かたち」へと落とし込み、周囲の人を納得させていくステップが不可欠だ。
「直感から思考をはじめる」とは、「ただの妄想で終わる」ということではない。
ビジョナリーな人たちは、途方もないビジョンを駆動力にしながらも、同時に「直感」を「論理」につなぎ、「妄想」を「戦略」に落とし込むことを忘れていないのである。
このような思考のモードを「ビジョン思考(Vision Thinking)」と呼ぶことにしたい。
すべては「余白のデザイン」しだい
他方、「直感から思考をはじめる」と聞くと、身がまえる人も多いだろう。僕も以前は「論理の世界に引きこもっている人」の一人だったから、その気持ちはよくわかる。
かつての僕には、「ブレストを1時間やって、なんとかひねり出せたアイデアが2〜3個」などという時期もあった。ある程度のキャリアを積んでからも、「発想」とか「ひらめき」の世界というのは、「“センスのいい人”だけが立ち入れる場所」なのだという思いがどこかにあった。
しかし、「ビジョン思考=直感と論理をつなぐ思考法」は、一部の人だけに実践できるブラックボックスなどではない。
少し具体的にイメージしていただくために、ここで、ビジョン思考の「コツ」の1つをお伝えしてみよう。そのエッセンスは「余白をつくる」ということだ。
冒頭のエピソードに戻るなら、例の友人に対して、僕がしたのは「2つの助言」だ。
(1)いますぐ1冊のノートを買うこと(A6・無地のモレスキンノートがおすすめ)
(2)いますぐカレンダーに、毎朝15分、ノートを書くためだけの予定を入れること
それから1カ月後、彼女の表情は目に見えて明るくなっていた。もともとスマートだったその友人の頭はいっそうクリアになり、職場では以前にも増して活躍しているという。
「手書き」「1カ月続ける」「人に見せない」などの注意事項は伝えたものの、僕がアドバイスしたのは、「余白をどうデザインするか」だけだ。肝心の「何を書くか」については、ほとんど何も伝えていない。それでも彼女は「直感と論理をつなぐ思考法」を自ら体得し、しだいに「自分モード」を取り戻していった。