各業務の目的とミッションを明らかにし、
必要な人材をあてはめる

 中小企業の組織図を書こうとすると、どうしても俗人的になり、部門の名称を書くよりも人の名前を書いただけの組織図のほうが実態を示し、しっくりくることがあります。当時のユニクロもそうでした。でも俗人的組織図では、本来は必要な機能なのに担当者がいない、あるいは兼務している、という部署が明確に表現されません。

 この部は何をする部署、この課は何をすべきところ、しかし、現在は担当者が不在なので部門名だけを書いておく、あるいは別の部門のA課長が兼務している、というのが明確に分かるようにする必要があります。各業務の目的とミッションを明らかにしながら、組織図を作ります。担当者が空欄、あるいは兼務の状態が長く続くと、本来は必要不可欠なのに実施されない業務が存在することを示しますし、「業務の重複」「手続きの抜け」「誤謬=間違い」の原因になったり、「不正」の温床になったりします。

 たとえば管理部門は、経理、財務、総務、労務、人事、給与、教育、秘書、広報、情報システム、庶務などの各業務(仕事)を総括します。会社が徐々に大きくなっていく過程では、内部監査や法務、税務、購買管理などの部署が必要になり、株式上場を検討するようになればIR(投資家向け広報)、CSR(社会的責任)などの業務をする部署も必要になってきます。管理部は現業部門(ライン部門)の行動を会計数字で計測し管理し、促したり規制したりする部門であり、会社全体の会計思考の総元締めなのです。

 当時のユニクロには、管理部門に人材が2〜3人しかいなかったので、商品部や店舗運営部は担当業務ごとに人名を書き込んでいけたものの、管理部門には空欄ばかりが目立ちました。顧問税理士の先生には、税務申告だけでなく月次決算や本決算を依頼していたので、経理や財務の専任の担当者がまったくいませんでした。現在からは考えられないことですが、中小企業にはありがちなケースです。

 インタビューした幹部のなかにCFO(財務担当責任者)に最適な人(広証上場時の専務取締役)はいましたが、肝心の経理マンが1人もいなかったので、柳井社長に依頼して、なるべく早く経理・財務の担当者を中途採用してもらうことにしました。これは経理と財務の重要性を柳井社長が理解してくれたことにより、すぐに実施してもらえました。

 一般的に「経理」は会社全体の会計の取りまとめ、帳簿記入、決算作業を行ない、「財務」は現金・預金・手形などの現物を扱い、銀行借入れなどの資金繰りを担当します。経理と財務は同じ人がやってはいけない業務の代表格です。同じ人が行なうと不正や間違いが起きやすいので、内部牽制上、別の担当者が必要なのです。

 たとえば、売掛金の回収担当者と帳簿記入担当者と預金担当者が、同じ人だったらどうでしょう。今、売掛金10万円を得意先から現金で回収してきたとします。8万円しか回収しなかったことにして8万円を帳簿上入金処理し、それを預金し、残りの2万円を横領する、なんてことが可能です。ここでは各担当者を分け、相互チェックする体制を整備・運用していれば、このような不正は防げます。

 実は、こういう不正ができないような組織にしておくのは経営者の責任なのです。適正な人員配置とチェック機能を持った諸手続きの制度こそ、不正や間違いを予防・発見するための基礎なのです。難しい言葉で言うと内部統制制度ですが、これが会計思考を支える土台とも言えます。