ユニクロの成長を会計面から支えてきた公認会計士・安本隆晴氏に「会社を成長体質に変える数字の使い方」を5回にわたって紹介してもらいます。第3回は、ユニクロ(旧小郡商事)で上場準備コンサルティングを始めた安本氏が、いかにして同社に会計思考を導入したのかを明かします。

僕がファーストリテイリングの
監査役になった経緯

 1990年9月に僕は、山口県宇部市で紳士服小売店を営んでいた小郡商事(現ファーストリテイリング)の柳井正社長から、電話をもらいました。拙著『熱闘「株式公開」』(ダイヤモンド社、1990年3月、絶版)を読んでぜひお会いしたいと思った、ということでした。彼は72年に小郡商事に入社し、創業者である父・柳井等氏の後を継ぎました。

 当時は、ユニクロという店名のカジュアルショップを十数店、ほかに紳士服店や婦人服店も営んでいました。ユニクロはまだSPA(製造小売業)にはほど遠い、普通にメーカーから商品を仕入販売する小売店で、商品の品揃え、陳列方法、店舗オペレーションも店舗ごとにばらばらな状態で、標準化はあまり進んでいませんでした。

 柳井正著『一勝九敗』(新潮社、2003年11月)に、僕と出会ったときの様子が書かれています。

「会社全般をレビューしてもらったあと、コンサルティングが始まった。本では立派なことを書いているが、こんなひ弱そうな先生で大丈夫かな、と一瞬思う。後日談だが、先生のこのときのぼくに対する印象は『今までにない世界的な企業にしたい、と言われたときに、こんな体育会系の一本調子で大丈夫かな』と思ったそうだ。お相子である」

 このときから始まった上場準備作業が、後に急成長したファーストリテイリングの基礎を築くための大きな第一歩となりました。僕は、上場の目処がついた93年11月に監査役に就任し、現在に至っています。

 その当時のことは、上場準備コンサルティングを始めてから94年7月に広島証券取引所に上場するところまでを拙著『「ユニクロ」!監査役実録』(ダイヤモンド社、99年5月)に詳しく書きました。多少の重複はあるかもしれませんが、同書に書いていないことも含めて、会計思考の視点からいくつかの出来事に光を当ててみることにします。

真っ白な模造紙に、あるべき姿の組織図を描く

 コンサルティングの手始めとして、「組織図をください」とお願いしました。すると、ちゃんとした組織図を作ったことがないということだったので、全般的な経営診断をしたレビュー結果報告とコンサルティング契約のあと、すぐに組織図を作ることにしました。

 初めに、経営幹部数名にインタビューし、どのような業務を分担しているかを聞き出しました。組織図を作るには、経営戦略を機能別に分解し、各部門にその機能を割りつけ、細かな業務分掌を別紙に記入しながら、それぞれのミッション(使命・目的)を決めていきます。